ある少年の告白（BOY ERASED）

（2018年　アメリカ）（上映時間1時間55分）
監督・脚本：ジョエル・エドガートン
出演：ルーカス・ヘッジズ、ニコール・キッドマン、ジョエル・エドガートン、
ジョー・アルウィン、グザヴィエ・ドラン、トロイ・シヴァン、テオドール・
ペルラン、チェリー・ジョーンズ、フリー、ラッセル・クロウ
＊TOHOシネマズシャンテほかにて公開
ホームページ　http://www.boy-erased.jp/
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＜ストーリー＞
アメリカの田舎町。牧師の父と優しい母のひとり息子として、何不自由なく育
った大学生のジャレッド（ルーカス・ヘッジズ）。ところが、ふとしたきっか
けから、彼は自分がゲイであることに気づく。ジャレッドは両親に告白するが、
両親は息子の告白を受け止めきれず、同性愛を「治す」という矯正プログラム
への参加を勧める。ジャレッドがそこで目にした口外禁止のプログラムの内容
は、驚くべきものだった……。

＜レビュー＞
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驚きの同性愛者矯正施設の実態と家族の愛
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自身の体験を記したガラルド・コンリーの原作を俳優であるジョエル・エド
ガートンが映画化しました。エドガートンにとって、2016年のサスペンス・ス
リラー『ザ・ギフト』に次ぐ監督第2作目となります。

映画の冒頭は、幼い男の子を撮影したホームビデオ。これ以上ないほどのかわ
いらしさです。いかにもお涙頂戴映画のオープニングのようですが、全体のタ
ッチは抑制的です。

続いて映るのは、冒頭の男の子の成長した姿。アメリカの田舎町に住む大学生
のジャレッドです。だが、どうも様子がおかしい。牧師の父マーシャルと母ナ
ンシーとの間に気まずい空気が流れています。

その直後、ジャレッドは母とともにある場所へと向かいます。そこは同性愛の
矯正プログラムを実施する施設。キリスト教保守派的な思想の下で、同性愛を
アル中や薬物依存と同じ病気として扱い、それを「治す」というのです。

どうしてジャレッドはこのプログラムに参加することになったのか。その経緯
はなかなか明かされません。両親との対立や葛藤も序盤では描かれません。そ
れに代わって描かれるのは、矯正プログラムの実態。口外禁止のその内容はメ
チャクチャです。学問的な裏付けなど何もないことを延々と続けます。しかも、
やっかいなのは、実施者たちが完全なワルとは言えないことです。

施設の所長であるヴィクター（監督を務めたジョエル・エガートンが自ら演じ
る）は、入所者たちを本当に病気だと思い、それを救おうと熱心に行動します。
一方、ジャレッドの両親も息子のためと思い行動します。特に息子に付き添っ
てホテル住まいをするナンシーは、まさに無償の母の愛。

そしてジャレッドはじめ入所者たちも、当初は「自分は病気だ」「絶対に治る
んだ」と信じています。抑制的な描写だからこそ、そんな入所者たちや親たち
の苦悩がよけいにリアルに見えてきます。

中盤以降は、現在進行形で矯正プログラムの実態を暴露するのと並行して、ジ
ャレッドの過去が挟まれます。大学でゲイの男との間である出来事が起き、そ
こから自身の同性愛が露見したこと。それがプログラム参加のきっかけとなっ
たことなどです。

終盤は、親の愛と家族のドラマの色合いが強くなります。ナンシーの圧倒的な
愛がジャレッドに注がれます。また、4年後の後日談では、父のマーシャルとジ
ャレッドの葛藤と、絆の再生に向けたささやかな光が見えます。

このあたりは、マーシャルの変化がやや唐突にも思えるし、無理やり感動に持
っていくあざとさも感じるのですが、そこはかとない感動と余韻が残るのは確
かです。

ジャレッドを演じたのは、『マンチェスター・バイ・ザ・シー』でアカデミー
賞助演男優賞にノミネートされたルーカス・ヘッジズ。主人公の葛藤をリアル
に演じています。すっかり貫禄が出た父マーシャル役のラッセル・クロウ、相
変わらず美しい母ナンシー役のニコール・キッドマンも、抑制的ながら存在感
のある演技を見せています。

そして、この映画で絶対に見逃していけないのがエンドロール前の字幕。驚愕
の事実が告げられます。

劇中でジャレッドは何度も車から手を出して、ナンシーに「危ない」と叱られ
ます。それは、周囲の呪縛から自由になって、本当の自分をさらけ出したいと
いう思いを象徴した行動だったのでしょう。「自分自身」であることはけっし
て誰にも曲げられない。そんな当たり前のことを再認識させられる映画でした。

≪ぽちの満足度≫
★★★☆☆（＋1／2★）
（88点）
                                                         （田中ひろあき）


〔鑑賞データ〕
2019年4月22日（月）シネマカリテにて。午前11時15分の回


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