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ドント・ウォーリー
（DON'T WORRY, HE WON'T GET FAR ON FOOT）
（2018年 アメリカ）（上映時間1時間55分）
監督・脚本：ガス・ヴァン・サント
出演：ホアキン・フェニックス、ジョナ・ヒル、ルーニー・マーラ、ジャッ
ク・ブラック、マーク・ウェバー、ウド・キア、キャリー・ブラウンスタイン、
ベス・ディットー、キム・ゴードン
＊ヒューマントラストシネマ有楽町、ヒューマントラストシネマ渋谷、新宿武
蔵野館ほかにて公開
ホームページ http://www.dontworry-movie.com/
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＜ストーリー＞
酒浸りの日々を送り、自動車事故で胸から下が麻痺して車いす生活を余儀なく
されたジョン・キャラハン（ホアキン・フェニックス）。絶望からますます酒
に溺れて、自暴自棄の日々を送る。だが、やがて断酒のグループ・セラピーで
自分を見つめ直すようになる。同時に、持ち前の辛辣なユーモアを発揮して、
風刺漫画家として第2の人生をスタートさせるのだが……。
＜レビュー＞
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車いすの漫画家を温かく見守るガス・ヴァン・サント監督
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『ドラッグストア・カウボーイ』『マイ・プライベート・アイダホ』『グッ
ド・ウィル・ハンティング〜旅立ち』『エレファント』『ミルク』など数々の
名作を生み出してきたガス・ヴァン・サント監督による新作です。
2010年に59歳で他界した風刺漫画家ジョン・キャラハンの実話をもとにした映
画。その人生は壮絶なものです。オレゴン州ポートランドで酒浸りの日々を送
っていたジョン・キャラハンは、その酒がもとで車いす生活に。苦闘の末に、
やがて風刺漫画家として第2の人生をスタートさせます。
とくれば、涙腺決壊の感動のドラマを想像しがちですが、そこはさすがにヴァ
ン・サント監督。安直な再起のヒーロー物語などにはしていません。主人公を
弱点だらけの生身の人間として描きます。さらに、時系列を無視した構成によ
って、キャラハンの多面的な姿が見えてきます。
冒頭は、様々な人々が自身について語るドキュメンタリータッチの映像。実は、
これ、断酒のグループ・セラピー。そこには、車いす姿のキャラハンもいます。
彼の告白をはじめ、いくつかの場面を導入として彼の過去が綴られます。
前半のヤマ場は、何といっても交通事故とその直後の日々。アルコール依存で
ハチャメチャな日々を送っていたキャラハンは、同じく泥酔状態のデクスター
が運転する車で事故に遭い、胸から下が麻痺して車いす生活となってしまいま
す。
その経緯を見れば、とても同情などできませんが、運転していたデクスターが
軽傷だったという運命の皮肉が、やるせなさを漂わせます。そして何よりも、
日々の行動に支障をきたすキャラハンの姿をリアルに見せられることによって、
観客は彼が抱えた苦悩や怒りを余すところなく感じるようになります。
とはいえ、暗さや重たさに包まれた映画ではありません。事故後のキャラハン
の性生活のネタで笑いを取るなど、ユーモアにも満ちています。キャラハン自
身、バイタリティーにかけては人一倍の人物だけに、躍動感を感じさせる場面
もあります。キャラハンが見る体操選手の幻覚など、細かな映像テクニックも
冴え渡っています。
車いす生活となったキャラハンが、絶望からますます酒に溺れ、自暴自棄の
日々を送った末に、断酒を決意するシーンが印象深いところ。彼を酒に走らせ
た原因の一つであろう実母が、幻となって彼に語りかけます。
後半は、キャラハンが酒から抜け出し、風刺漫画家として活躍する様子が描か
れる。そこでは、セラピーのステップに沿ってキャラハンの変化が描かれます。
一歩間違えば、宗教的、あるいはスピリチュアル系の話になりそうですが、セ
ラピーの主催者である青年ドニーと、キャラハンの人間的なつながりを根底に
据えているので、ストンと胸に落ちてきます。
キャラハンの決定的な変化は、「許し」です。事故を恨み、思い通りにならな
い周囲に苛立ち、軋轢を生んできた彼が、様々な人々への謝罪を始めます。さ
らに、その「許し」はキャラハン自身にも向けられます。
ここに至るまでに、キャラハンの様々な側面を見せられることで、彼の変化が
自然なものに感じられます。そして何よりも、キャラハンを見守るヴァン・サ
ント監督の温かな視線が、この映画を味わい深いものにしています。
観終わって最も感じたのは、他人を恨むことの愚かさと人とのつながりの大切
さ。当たり前のことですが、それをごく自然に伝えてくれる作品です。
≪ぽちの満足度≫
★★★☆☆（＋1／2★）
（88点）
（田中ひろあき）
〔鑑賞データ〕
2019年5月9日（木）新宿武蔵野にて。午後12時35分の回
[「と」のページ]
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