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轢き逃げ 最高の最悪な日
（2019年 日本）（上映時間2時間7分）
監督・脚本：水谷豊
出演：中山麻聖、石田法嗣、小林涼子、毎熊克哉、水谷豊、檀ふみ、岸部一徳
＊有楽町スバル座、新宿バルト9ほかにて全国公開
ホームページ http://www.hikinige-movie.com/
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＜ストーリー＞
大手建設会社に勤務する宗方秀一（中山麻聖）は、副社長の娘である白河早苗
（小林涼子）との結婚式を目前に控え、その打ち合わせへと車を走らせる。助
手席には彼の親友で、式の司会を務める森田輝（石田法嗣）が座っていた。だ
が、約束の時間に遅れそうになり、抜け道を急いだ秀一は、若い女性をはねて
しまう。秀一と輝はその場を立ち去り、打ち合わせへと向かう。警察の捜査に
怯えながらも、結婚式に臨む秀一。一方、被害者の両親である時山光央（水谷
豊）と千鶴子（檀ふみ）は悲しみに暮れる。そんな中、ベテラン刑事の柳公三
郎（岸部一徳）と新米刑事の前田俊（毎熊克哉）が、秀一の前に現れる……。
＜レビュー＞
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水谷豊が描く轢き逃げ事件を巡る心理ドラマとサスペンス
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俳優・水谷豊の監督第2作。今回は脚本も自ら担当しています。ネタとしてはか
なり重く暗い話ですが、エンタメ性も担保した作品です。人間ドラマに加え、
サスペンスの要素を前面に押し出しています。
冒頭、ある地方都市の俯瞰から一人の青年にフォーカス。全力で街を走る森田
輝。彼が向かったのは、大手建設会社の同僚で親友の宗方秀一が待つ車。慌て
て輝が助手席に乗り込み、車はスタート。秀一は、勤務先の副社長の娘である
白河早苗との結婚式を目前に控え、その打ち合わせへ向かうところ。輝は式の
司会を務めることになっています。
しかし、輝の遅刻が原因で約束の時間に遅れそうになったことから、2人は抜け
道を通ることにします。そこで車は若い女性をはねてしまいます。周囲に誰も
いなかったことから秀一と輝はその場を立ち去り、そのまま打ち合わせへと向
かいます。
前半は、轢き逃げ事件の露見を恐れる秀一と輝の心理を中心に見せます。いつ
バレるかと気が気でない動揺が巧みに描かれ、緊迫感が漂います。罪の意識に
苦しみつつ目の前の幸せを捨てられずに、目前の結婚式に集中しようとする秀
一の心理もきっちりと描かれて、見応えがあります。映像的にも細かな工夫が
あちこちに施され、人間ドラマを盛り上げます。
その後、秀一と輝の周辺では謎の脅迫状や結婚式での電報など、不思議な出来
事が相次ぎ、事件は複雑な様相を呈し始めます。そして、秀一と輝はベテラン
刑事の柳公三郎と新米刑事の前田俊によって捕まってしまいます。
意外に早く露見した事件。その後、今度は被害者の両親である時山光央と千鶴
子が登場します。当然ながら2人は悲しみに暮れています。特に光央の憔悴ぶり
はひどく、その胸中には犯人に対する怒り、絶望、復讐心などが渦巻いていま
す。事件現場の地面を手で触れる光央の姿からは、彼の心理がダイレクトに伝
わって切なさが漂います。
ここから被害者家族ＶＳ加害者という構図でドラマが展開するかと思いきや、
むしろ事件に隠された謎を探るサスペンスが前面に出てきます。娘の遺品に携
帯電話がなかったことから、光央はその行方を探すとともに、娘の日記なども
手掛かりに、なぜ彼女が当日あの現場にいたのかという謎に迫っていきます。
そして、その果てに驚愕の事実と、轢き逃げ事件の背後にいる人物が浮上しま
す。
観終わって、全体的に心理ドラマ、人間ドラマとしてのツッコミの浅さを感じ
てしまいました。この映画には、深いテーマがいくつも横たわっています。罪
と罰、復讐と許しなどに加え、終盤では「嫉妬」というテーマも加わります。
そこにエンタメ的な要素もたくさん盛り込んでいるので（光央が真相を突き止
める場面などではアクションシーンまで登場）、それらを余すところなく描く
のは、さすがに難しかったのかもしれません。
とはいえ、けっしてただのエンタメ作品に終わらせないという意図は、ラスト
にも明確に表れています。千鶴子と秀一の新妻・早苗を対面させ、罪や嫉妬に
関する様々な問いを観客に投げかけます。そこで披露される秀一の手紙が秀逸
です。
脚本的にはやや物足りなさを感じたものの、さすがに監督第二作ということで
水谷豊の演出は見事。特に役者を十二分に活かす演出が光ります。何よりも、
原作ものの映画全盛のこの時代に、オリジナル脚本の作品を送り出した気概を
高く評価したいところです。
≪ぽちの満足度≫
★★★☆☆（＋1／2★）
（84点）
（田中ひろあき）
〔鑑賞データ〕
2019年5月12日（日）ユーロスペースにて。午後2時の回
[「ひ」のページ]
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