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金子文子と朴烈（パクヨル）（ANARCHIST FROM COLONY）
（2017年 韓国）（上映時間2時間9分）
監督：イ・ジュンイク
出演：イ・ジェフン、チェ・ヒソ、キム・インウ、山野内扶、キム・ジュンハ
ン、金守珍、趙博、柴田善之、小澤俊夫、佐藤正行、金淳次、松田洋治、ハ
ン・ゴンテ、ユン・スル
＊シアター・イメージフォーラムほかにて公開。全国順次公開
ホームページ http://www.fumiko-yeol.com/
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＜ストーリー＞
1923年、東京。おでん屋で働く金子文子（チェ・ヒソ）は、"犬ころ"という詩
に心を奪われ、作者である朝鮮人アナーキストの朴烈（イ・ジェフン）に出会
ってすぐに同志、そして恋人として共に生きていくことを決める。しかし、関
東大震災が発生し社会が混乱する中で、政府は朝鮮人や社会主義者らを無差別
に検束する。朴烈と文子も獄中へ送り込まれるが、彼らの獄中での闘いは多く
の支持者を獲得し、日本の内閣を混乱に陥れる。そして2人は歴史的な裁判に身
を投じていく……。
＜レビュー＞
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朝鮮人アナーキストと日本人女性の愛と闘い。骨太な娯楽作
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実在の朝鮮人アナーキスト・朴烈と、彼と行動をともにした日本人女性・金子
文子の愛と闘いを描いたドラマです。
大正時代末期の東京。朝鮮人アナーキストの朴烈が、人力車を引いているとこ
ろからドラマが始まります。目的地に着いて車から降りた客は、料金を地面に
放り投げます。額が足りないと抗議する朴烈に、「朝鮮人のくせに生意気な」
と殴りかかります。まさに、そういう時代だったのです。
まもなく、朴烈の前に金子文子という日本人女性が現れます。彼女は"犬ころ"
という詩に心を奪われ、その作者である朴烈に出会ったとたんに、同棲を持ち
かけます。この唐突な展開に最初は戸惑ったものの、観ているうちに2人の絆の
強さが自然に感じられて違和感がなくなります。おまけに、文子の悲惨な生い
立ちがさりげなく語られるから、この映画における彼女の行動が納得できるも
のになっていきます。
そして、朴烈と文子、それぞれのキャラが魅力的です。特に文子は、無鉄砲で
天衣無縫。猪突猛進型の女性です。底抜けの明るさを持つのは、悲惨な生い立
ちの裏返しでしょう。そこからユーモアの芽もたくさん生まれてきます。何者
にも従属しない独立心を持つ自由人であり、その上で朴烈と結びつきます。
前半は、朴烈と文子が出会い、関東大震災に遭遇し、政府によって検束される
までが描かれます。そこで興味深いのが、朝鮮に恨みを持つらしい内務大臣・
水野錬太郎の主導する日本政府の動き。水野はデマを積極的に吹聴し、朝鮮人
虐殺を加速させます。そうかといって日本人すべてを悪人に描いているわけで
はいりません。水野に異を唱えたり、職を賭してその行動を阻止しようとする
高官も描かれます。
まもなく水野たちの主張によって、政府は朝鮮人や社会主義者らを無差別に検
束。朴烈と文子も獄中へ送り込まれます。
中盤は、朴烈と文子それぞれに対して、若い判事の立松が予備尋問を行います。
2人の不動の意思と、絆の強さを目の当たりにするうちに、立松の心は少しずつ
揺れていきます。このあたりは立松の人間ドラマでもあり、彼と朴烈と文子と
の心の触れ合いのドラマの趣もあります。
それが象徴的に表れるのが、立松が朴烈の願いに応えて、文子との記念写真の
撮影に便宜を図るシーン。彼の人間性を感じさせるエピソードであるのと同時
に、朴烈と文子の分かちがたい絆にホロリと涙させられます。
後半は法廷劇。2人に対して大逆罪を問う裁判です。実は、朴烈も文子も予備尋
問で罪を認めて、自分を不利な立場に追い込んでいました。そこにはある計算
が存在していたのです。
この法廷劇は、意表を突いたスリリングなもの。ケレンたっぷりの場面が続き
ます。同時に、何ゆえ、彼らがこうした立場で裁かれなければならないのか、
それを観客に問いかけます。
人種差別や暴走する権力の恐ろしさ、愚かさなど社会的、歴史的なメッセージ
が強く込められた映画ですが、説教臭さはまったくありません。他に類を見な
い個性的なカップルの数奇な人生を、骨太な娯楽性作品に仕立て上げています。
キャストは、韓国人、在日コリアン、日本人などが入り混じります。そんな中
でも、特に驚きなのが文子を演じたチェ・ヒソ。その佇まいは、まさに文子そ
のもの。彼女が文子を演じなければ、ここまで素晴らしい映画にはならなかっ
たかもしれません。
≪ぽちの満足度≫
★★★★☆
（91点）
（田中ひろあき）
〔鑑賞データ〕
2019年2月19日（火）シアター・イメージフォーラムにて。午前11時の回
[「か」のページ]
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