新聞記者

（2019年　日本）（上映時間1時間53分）
監督：藤井道人
出演：シム・ウンギョン、松坂桃李、本田翼、岡山天音、郭智博、長田成哉、
宮野陽名、高橋努、西田尚美、高橋和也、北村有起哉、田中哲司
＊新宿ピカデリー、イオンシネマほかにて全国公開
ホームページ　http://shimbunkisha.jp/
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＜ストーリー＞
日本人の父と韓国人の母のもとアメリカで育った東都新聞社会部の若手記者・
吉岡エリカ（シム・ウンギョン）。ある日、社会部に大学新設計画に関する極
秘情報の匿名FAXが届き、吉岡は上司から調査を任される。一方、内閣情報調査
室の杉原拓海（松坂桃李）は、現政権に不都合なニュースをコントロールする
任務に就いていた。そんな中、杉原はかつての上司・神崎と再会するが、神崎
はその数日後に自殺してしまう。神崎の死に疑問を抱いた吉岡は真実に迫ろう
とする。杉原もそこにある闇に気づき選択を迫られるのだが……。

＜レビュー＞
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実際のネタも盛り込んで描く日本映画では異例の政治サスペンス
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アメリカにはよくある実際の政治をネタにした映画。だが、最近の日本ではほ
ぼ皆無。そんな中、この映画はフィクションではあるものの、現実に起きた事
件を想起させるネタをいくつも盛り込んで、政治や社会に真正面から挑んだチ
ャレンジングな作品です。

主人公は、東都新聞社会部の若手記者・吉岡エリカ。ある日、社会部に大学新
設計画に関する極秘情報の匿名FAXが届き、吉岡は上司から調査を任されます。
一方、外務省から内閣情報調査室に出向しているエリートの杉原拓海は、現政
権に不都合なニュースをコントロールする任務に就いています。

杉原はかつての上司・神崎と再会しますが、神崎はその数日後に自殺。神崎の
死に疑問を抱いた吉岡は真実に迫ろうとします。杉原もまた、神崎の死の背後
にある闇に気づきます。

「大学新設計画」とくれば、誰もが例の「加計学園問題」を想像するでしょう。
それ以外にも、文科省の元高官のスキャンダル、ジャーナリストが起こしたレ
イプ犯罪のもみ消し工作など、この映画には最近起こった事件を踏まえたと思
われるネタが登場します。

映画の序盤に挟まれるテレビの座談会には、この映画の原案となったベストセ
ラー『新聞記者』の著者である東京新聞の望月衣塑子記者が登場。さらに、ス
キャンダルに巻き込まれた元文部官僚の前川喜平氏も登場します。本作は、間
違いなく今の政治問題や社会状況に依拠した作品です。

ただし、小難しい理屈を述べ立てた映画ではありません。基本に据えられたの
は緊迫感満点のサスペンス。吉岡と杉原を交互に映し出す冒頭の映像から破格
の緊迫感が漂います。全体に暗めの映像で、手持ちカメラを使ったり、カメラ
アングルに工夫を凝らすなどして、息苦しいほどの緊迫感を作り出します。

いわゆる「悪」の描写も怠りがありません。政府の利益を守るために、あらゆ
る汚い手を使う内閣情報調査室（内調）による数々の工作が描かれます。そう
した悪の親玉として、杉原の上司である多田智也という人物を登場させ、その
憎々しさを強調します。特に彼の冷徹な目には、背筋が凍らされるほどでした。

人間ドラマもあります。若手記者の吉岡は、日本人の父と韓国人の母のもとア
メリカで育ちました。父も新聞記者でしたが、誤報事件をきっかけに謎の死を
遂げた過去を持ちます。それが彼女の新聞記者としての行動に大きな影響を与
えます。

一方、杉原は妻が出産間近。幸せな家庭を築きつつ、政府のためとはいえ汚い
仕事をやらされる生活に彼の心は乱れます。その葛藤は後半に進むにつれてま
すます大きくなります。

やがて吉岡と杉原は交錯します。終盤に明らかになる真実は、エンタメ作品ら
しい壮大なもの。しかし、昨今の政治や社会の姿を見ていると、けっして絵空
事とも思えません。

最後に究極の選択を迫られる杉原。その苦悩に満ちた表情が忘れられません。
それを交差点のこちら側から見つめる吉岡の複雑な表情もまた、頭にこびりつ
いて離れません。様々な余韻を残してドラマは幕を閉じます。

吉岡を演じたのは、『サニー　永遠の仲間たち』『怪しい彼女』などで活躍し
てきた韓国のシム・ウンギョン。その表情が様々な苦悩や葛藤を雄弁に伝えて
くれる演技でした。杉原を演じた松坂桃李も相変わらず見事な演技。こちらも
杉原の苦悩や葛藤をセリフだけでなく、その表情や佇まいからキッチリ見せて
くれました。

終幕近くで、多田は「民主主義は形だけでいいんだ」と語ります。これこそが、
作り手たちの最大の問題提起かもしれません。この映画が参議院選挙の前に公
開されたことには大きな意味があると思います。投票に行くつもりのある人も
そうでない人も、政権を支持している人もそうでない人も、ぜひ観て欲しいも
のです。

≪ぽちの満足度≫
★★★★☆
（91点）

〔鑑賞データ〕
2019年6月28日（金）池袋HUMAXシネマズにて。午後1時30分の回
                                                              （田中ひろあき）

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