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たちあがる女（WOMAN AT WAR）
（2018年 アイスランド・フランス・ウクライナ）（上映時間1時間41分）
監督・脚本：ベネディクト・エルリングソン
出演：ハルドラ・ゲイルハルズドッティル、ヨハン・シグルズアルソン、ヨル
ンドゥル・ラグナルソン、マルガリータ・ヒルスカ
＊YEBISU GARDEN CINEMAほかにて公開。全国順次公開
ホームページ http://www.transformer.co.jp/m/tachiagaru/
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＜ストーリー＞
アイスランドの田舎町。セミプロ合唱団の講師ハットラ（ハルドラ・ゲイルハ
ルズドッティル）は、「山女」と呼ばれる謎の環境活動家という裏の顔を持っ
ていた。弓矢を使って送電線をショートさせ、地元のアルミニウム工場に対し
て孤独な戦いを繰り広げていたのだ。そんなある日、彼女のもとに、長年の願
いであった養子を迎える申請がついに受け入れられたとの知らせが届く。そこ
でハットラは、アルミニウム工場との戦いに決着をつけるべく、最終決戦に乗
り出すのだが……。
＜レビュー＞
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ひたすら闘い続ける女を独特のタッチで描く
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アイスランドの田舎町を舞台に、馬と人間を巡る悲喜こもごもの物語を超個性
的な作風で綴った長編デビュー作『馬々と人間たち』のベネディクト・エルリ
ングソン監督の新作です。今回も、一筋縄でいかない変わった映画です。
冒頭、ハットラという女性が意外な形で登場します。弓を引いて送電線をめが
けて矢を放ちます。そして、電線をショートさせて、地元のアルミニウム工場
の操業を妨害します。彼女は、何度もこうした行為を繰り返しています。
ヘリコプターの追跡を逃れ、地元の中年牧場主の助けもあって無事に帰還した
ハットラは、またしても意外な姿で現れます。今度はセミプロ合唱団の明るく
朗らかな講師。彼女はこうして表の顔で活動する傍ら、人々から「山女」と呼
ばれる謎の環境活動家という裏の顔を持っていたのです。
そんな中、ハットラのもとにある知らせが届きます。4年前に提出していた養子
を迎える申請がついに受け入れられたです。養子の候補は、ウクライナ紛争で
両親を亡くし、祖母も亡くした4歳のニーカという少女。
さて、この映画の何が変わっているのか。最も変わっているのは、劇伴の演奏
者であるブラスバントやピアニスト、ウクライナの合唱隊をハットラと同じ
シーンに、そのまま登場させてしまうこと。そこから何とも言えないユーモラ
スな雰囲気が醸し出されます。ハットラの様々な心理も浮かび上がってきます。
アイスランドの自然を生かした映像は今回も健在。果てしなく広がる草原など
美しい風景だけでなく、ゴツゴツした岩山など様々な自然の表情が見られます。
それらがハットラの行動の舞台となり、ドラマを盛り上げる役割を果たします。
そして今回の大きな特徴が、自然破壊、過度なテクノロジーの発達、監視社会
といった現代の社会的テーマが盛り込まれた作品であるところ。とはいえ、そ
うした社会的テーマに正面から言及するわけではありません。
もしも今の時代を痛烈に批判するなら、環境活動家のハットラを典型的なヒロ
インとして描くはず。しかし、エルリングソン監督は、ハットラにさりげない
シンパシーを示しつつも、それ以上は安易に近づきません。見ようによっては
ハットラは、身勝手で無謀な女に見えないこともありません。
それでも、ひたすら前に突き進むハットラを見ているうちに、何だか心が湧き
たってきます。なんとまあバイタリティーあふれる女性でしょう。人を食った
ユーモラスなタッチも相まって、ついつい目が離せなくなってしまいます。
それが加速するのが終盤。ハットラは、アルミニウム工場との戦いに決着をつ
けるべく、最終決戦に乗り出します。そこでのハットラと当局の攻防はスリリ
ングで観応え十分。ドローンを駆使して必死で追う当局を前にして、何度かあ
わやの場面を迎えながらも、ハットラは逃走を続けます。このあたりはアクシ
ョン映画としての魅力も十分に備えています。
終盤のドラマのポイントになるのは、ハットラの双子の姉の存在。ドラマに大
逆転をもたらします。
そしてラストもなかなかに手ごわい。さすがに、ここに至ってはホッコリする
感動の大団円が訪れるかと思いきや……。それもまたエルリングソン監督らし
いといえるでしょう。
素直な感動物語でも、正面切った社会派映画でもありませんが、ありきたりの
映画にはない魅力があります。シニカルでユーモラスなドラマを通して、人間
のたくましさや弱さなど様々な面が伝わってきました。
≪ぽちの満足度≫
★★★☆☆（＋1／2★）
（87点）
〔鑑賞データ〕
2019年3月10日（日）YEBISU GARDEN CINEMAにて。午後2時30分の回
（田中ひろあき）
[「た」のページ]
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