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誰がために憲法はある
（2019年 日本）（上映時間1時間11分）
監督：井上淳一
出演：渡辺美佐子、高田敏江、寺田路恵、大原ますみ、岩本多代、日色ともゑ、
長内美那子、柳川慶子、山口果林、大橋芳枝
＊ポレポレ東中野ほかにて公開。全国順次公開
ホームページ http://www.tagatame-kenpou.com/
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＜ストーリー＞
日本国憲法を擬人化した芸人・松元ヒロによる一人語り「憲法くん」を名優・
渡辺美佐子が演じるとともに、彼女たちが長年続けてきた原爆朗読劇の模様と、
それぞれの思いを描く。
＜レビュー＞
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女優・渡辺美佐子の人生を通して見える平和への思い
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憲法や戦争、平和について考えるきっかけになりそうな映画です。監督はかつ
て若松プロに在籍し、『戦争と一人の女』『大地を受け継ぐ』や『止められる
か、俺たちを』の脚本などで知られる井上淳一。
一人語りから始まります。憲法を擬人化して、「リストラの危機にあります」
と訴える芸人・松元ヒロの「憲法くん」。ただし、ここで語るのは松元ではな
く、今年87歳になる名優の渡辺美佐子です。もちろん、松元の語りはオリジナ
ルだし、芸人らしいユーモアにあふれているのでしょう。だが、渡辺が演じる
ことで、そこに重みと深みが加わります。
憲法には、変えていいところといけないところがあるのではないか。憲法を変
える理由は、現実に合わなくなったからだというが、理想を現実に近づけるよ
りも、現実を理想に近づけるのが本当ではないのか。そんな言葉の一つ一つが
胸にジワジワと広がってきます。
そこから話は渡辺たちが33年に渡って演じている原爆朗読劇に移ります。高田
敏江、寺田路恵、大原ますみ、岩本多代、日色ともゑ、長内美那子、柳川慶子、
山口果林、大橋芳枝……。いずれ劣らず、演劇や映像の世界で活躍し続けてき
た名優ばかりです。
彼女たちのこの朗読劇に対する思いが語られます。関わったきっかけやその背
景は人それぞれですが、いずれも平和への強い願いを持ち、この朗読劇に熱い
思い入れを抱いていることがわかります。なるほど、断片的ですが、映画の中
に登場するその公演風景は圧倒的。原爆にまつわる当事者たちの痛烈な思いを、
女優たちが魂を込めて演じています。
だが、そうだとしても、なぜ渡辺はこの朗読劇を執念ともいえる形で続けてき
たのか。中盤ではその真実が明かされます。そこには、彼女の小学校時代の初
恋の少年と原爆との関りがあります。戦後35年目にあたる1980年にそのことを
知った渡辺の思いが、朗読劇の原点となりました。
渡辺が原爆ドームを訪れ、慰霊碑に献花するシーンは涙を誘われます。この映
画は単に憲法や戦争、平和に対して問題提起しているだけではなく、名優・渡
辺美佐子の波乱と感動に満ちた人生のドラマにもなっています。その生き様そ
のものが、憲法や戦争の話とリンクするのです。
この映画のもう一つの大きな要素は「継承」です。戦争を直接知る世代が減る
中で、渡辺たちはこの朗読劇を2019年限りで終えるといいます。自分たちの活
動を様々な形で受け継いでもらいたいという思いは、すべてのメンバーに共通
しています。それはすべての人々に課せられた課題でしょう。
最後には、再び渡辺による「憲法くん」が登場。改めて、渡辺の肉声で語られ
る憲法前文。それはまさに美しく、崇高な理想です。渡辺の人生や思いを知っ
た後だけに、なおさら胸に迫ってきます。
けっして声高な憲法や反戦についてのメッセージを発した映画ではありません。
渡辺の人生を通して、地に足の着いた平和への思いが伝わってくるドキュメン
タリー映画です。
≪ぽちの満足度≫
★★★★☆
（90点）
（田中ひろあき）
〔鑑賞データ〕
2019年4月29日（月・祝）ポレポレ東中野にて。午前10時30分の回
[「た」のページ]
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