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バイス（VICE）
（2018年 アメリカ）（上映時間2時間12分）
監督・脚本：アダム・マッケイ
出演：クリスチャン・ベイル、エイミー・アダムス、スティーヴ・カレル、サ
ム・ロックウェル、タイラー・ペリー、アリソン・ピル、ジェシー・プレモン
ス
＊TOHOシネマズ 日比谷ほかにて全国公開
ホームページ http://longride.jp/vice/
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＜ストーリー＞
1960年代半ば。酒癖が悪く名門大学を退学になり、しがない電気工に甘んじて
いたチェイニー（クリスチャン・ベイル）は、婚約者のリン（エイミー・アダ
ムス）に叱咤されて政界を目指し、やがて下院議員ドナルド・ラムズフェルド
（スティーヴ・カレル）のもとで政治を学ぶ。その後、大統領首席補佐官、国
務長官などを歴任し、ついにジョージ・Ｗ・ブッシュ（サム・ロックウェル）
政権で副大統領の座に就いたチェイニーは、ブッシュを巧みに操り、権力を自
らの元に集中させていく……。
＜レビュー＞
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稀代の怪物政治家を様々な側面から描く社会派エンタメ
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ジョージ・Ｗ・ブッシュ（息子の方）政権で副大統領を務めたディック・チェ
イニーを主人公に据えた映画。とくれば、普通は彼の伝記映画。しかし、『俺
たちニュースキャスター』『マネー・ショート 華麗なる大逆転』のアダム・
マッケイ監督の作品だけに、コメディ、政治ドラマ、ドキュメンタリーなど
様々な要素を持つ異色の社会派エンターティメント映画になっています。
青年時代のチェイニーは絵に描いたようなダメダメ男。酒とケンカで名門大学
を退学になり、しがない電気工をしていたものの、そこでも酒とケンカでトラ
ブルを起こします。そんな彼に、婚約者のリンは最後通牒を突きつけます。そ
れをきっかけにチェイニーは政界を目指し、やがて下院議員ドナルド・ラムズ
フェルドのもとで政治を学びます。その後、チェイニーは次第にのしあがり、
大統領首席補佐官、国務長官などを歴任します。
チェイニーはまさに権力にとりつかれた怪物政治家。もちろん人間だから苦悩
や葛藤はあります。しかし、それを深く描くことはしません。したがって、人
間ドラマとしての深みに欠けるのは事実。でも、それが逆にピカレスク（悪
漢）小説的な面白さを生み出します。
同時に、こういう人間の台頭を許した当時のアメリカ社会の実像もあぶりだし
ます。それはちょうどマイケル・ムーア監督のドキュメンタリー映画のような
雰囲気。シニカルでユーモラスで、痛烈な視点がアメリカに向けられています。
とにかく様々な仕掛けが詰め込まれた映画です。中盤のハイライトはエンド
ロール。娘が同性愛者であることを知ったのを機に、チェイニーは政界を離れ、
家族と田舎で暮らします。「めでたし。めでたし」というわけで、そこでエン
ドロールが流れます。だが、実はこれはニセのエンドロール。
その後、チェイニーはジョージ・Ｗ・ブッシュに誘われて、副大統領候補にな
ります。そこでも、あれこれともったいぶって、自分の権力を絶大なものにし
ようとします。ブッシュの無能さを見越したうえでの行動です。
そのあたりではチェイニー夫妻にシェイクスピア劇を演じさせたり、レストラ
ンで悪だくみをするチェイニーらに、ウエイターが「法改悪」のメニューをお
ススメするというシュールでブラックな場面なども用意されています。
そしてついに副大統領の座に就き、ブッシュを巧みに操り、権力を自らの元に
集中させるチェイニー。そこで起きたのが9.11のテロ。それを利用して、チェ
イニーは強引にイラクへの戦争を仕掛けます。
もちろんマッケイ監督は、そんなチェイニーを批判的に描いているのですが、
ここまでとんでもないことが続くと、もはや冗談のようにさえ思えてきます。
恐ろしさを通り越して不謹慎ながら笑ってしまいました。
終盤では、その後のチェイニーが描かれます。そこでも予想もしない仕掛けが
あります。実は、この映画は全編がある人物によるナレーションで進められま
す。時々彼の姿が映るのですがその正体は謎のまま。その正体が明かされ、チ
ェイニーの運命と絡むのです。
エンディングでは、チェイニーが行った愚策のせいで、どれだけの犠牲があっ
たかが告げられます。それが今のアメリカ政治に影響を与えていることも指摘。
さらに、劇中のあるシチュエーションを使ってリベラル派と保守派のケンカを
見せます。それは、今のアメリカの分断を象徴するような場面です。
チェイニーを演じたのは、クリスチャン・ベイル。今回は体重を20キロ増力す
るなど、完璧に本人になり切った演技。その他にも、ラムズフェルド役のステ
ィーヴ・カレル、ブッシュ役のサム・ロックウェル、パウエル役のタイラー・
ペリーなどのなり切りぶりも半端ではありません。チェイニーの妻役のエイ
ミー・アダムスも好演です。
≪ぽちの満足度≫
★★★☆☆（＋1／2★）
（87点）
（田中ひろあき）
〔鑑賞データ〕
2019年4月8日（月）ユナイテッド・シネマとしまえんにて。午後12時20分の回
[「は」のページ]
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