|
ＡＣＡＣＩＡ
（2008年 日本）（上映時間1時間40分）
監督・脚本・原作：辻仁成
出演：アントニオ猪木、石田えり、林凌雅、北村一輝、坂井真紀、川津祐介
＊角川シネマ新宿、ヒューマントラストシネマ有楽町ほかにて全国公開
ホームページ http://acacia-movie.com/
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
＜ストーリー＞
独居老人が住む団地で、用心棒のような役割をしている元覆面プロレスラーの
大魔神（アントニオ猪木）は、ある日、いじめられっ子の小学生タクロウ（林
凌雅）と出会う。タクロウにプロレスの技を教えたことがきっかけで、大魔神
はタクロウの母親から息子を預かって欲しいと押しつけられる。そして、タク
ロウには死んだと教えていた実父の居場所を記したメモを渡される。こうして、
タクロウと大魔神の２人暮らしが始まるのだが……。
＜レビュー＞
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
意外な存在感を発揮するアントニオ猪木と少年の交流
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
芥川賞作家、辻仁成が監督・原作・脚本の映画。なんと主演はアントニオ猪木。
元覆面レスラーの初老の男が、いじめられっ子と知り合い、身勝手な母親に頼
まれて彼の面倒を見ることに。そうするうちに、幼くして死んだ自分の息子の
ことを思い出す……というお話。
問題の猪木の演技ですが、これがなかなかのものです。もちろんプロの役者の
ような演技力はありませんが、元プロレスラーという設定もあってバツグンの
存在感を発揮。そのたたずまいが、すべてを雄弁に語っています。
特にいじめられっ子のタクロウとの交流が印象的。プロレスを教えたり、停泊
中の船にもぐりこんで、人食いザメ退治ごっこをしたり。微笑ましい光景に心
が和みます。子役の林凌雅も芸達者です。
全編函館ロケによる映像の美しさも魅力。有名な夜景をはじめ、様々な場所が
登場します。
ただし、ドラマ的には散漫な印象で、今ひとつ心に入ってきません。中心にな
るのは主人公がいじめられっ子と交流するうちに、死んだ息子に充分な愛情を
注げなかったことを悔やみ、その心の傷に向き合うことで再生に向かっていく
というお話。
しかし、それが十分に描ききれているかといえば疑問。石田えり演じる元妻の
登場の仕方や行動にも不自然さが感じられます。元夫と本格的にぶつかり合う
場面が数えるほどしかないのに、いきなりラストのああいう展開に持っていく
のは唐突では？
さらに、いじめられっ子と実父との再会劇や、老人団地の住人たちを通した
「老い」や「死」の問題なども描かれますが、どれも描き方が浅い気がします。
いじめられっ子の実父がケースワーカーで、腹話術を使うという面白い設定も、
あまり効果を発揮していません。
辻仁成監督の頭の中では、すべてが理想的に完結しているのかもしれませんが、
観ているこちらにとっては消化不良。文学的な表現をそのままセリフにしてい
るところも多いし、少なくとも脚本に関しては自分だけで書かないで、誰かほ
かの人も絡ませたほうがよかったのでは？
猪木のたたずまいと、美しい函館の風景は見応えアリ。そこに注目すれば、ま
あまあの映画だとは思いますが。
≪ぽちのオススメ度≫
★★☆☆☆（＋1／2★）
≪ぽちの満足度≫
★★☆☆☆（＋1／2★）
（猪木の存在感など見どころはあるものの、脚本や演出には物足りなさも。ス
トレートな感動を追う必要はないけれど、もう少し深みがあったほうが……）
（田中ひろあき（ぽち））
〔鑑賞データ〕
2010年6月26日（土）角川シネマ新宿にて。午後2時55分の回
[「あ」のページ] [「アルファベット」のページ] |
|