悪人

（2010年　日本）（上映時間2時間19分）
監督：李相日
出演：妻夫木聡、深津絵里、岡田将生、満島ひかり、樹木希林、柄本明、宮崎
美子、松尾スズキ、光石研、余貴美子、塩見三省、井川比佐志、永山絢斗、中
村静香、韓英恵、山田キヌヲ
＊TOHOシネマズみゆき座ほかにて公開
ホームページ　http://www.akunin.jp/
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＜ストーリー＞
保険会社に勤める石橋佳乃（満島ひかり）が殺害され、事件当日の夜にドライ
ブしていた大学生の増尾圭吾（岡田将生）が容疑者として警察に追われる。だ
が、まもなく増尾は殺害犯でないことがわかり、出会い系サイトを通じて佳乃
と知り合った、さびれた漁村に住む解体作業員の清水祐一（妻夫木聡）が新た
な容疑者として浮上する。そんな中、祐一は佳乃と同じように出会い系サイト
を通じて、紳士服量販店に勤める女性・馬込光代（深津絵里）と知り合う。や
がて祐一は、光代とともに警察の目を逃れて逃避行を繰り広げるのだが……。

＜レビュー＞
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男女の哀しい逃避行と現代社会の実像をリアルに描く
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芥川賞作家・吉田修一の同名ベストセラーを『69』『フラガール』の李相日監
督が映画化した作品。

冒頭に描かれるのは殺人事件。保険会社に勤める石橋佳乃は、出会い系で知り
合った祐一という男と会う約束をしていたものの、好意を持つ大学生の増尾と
たまたま会ったことから、祐一を振って増尾とドライブに出かけます。怒った
祐一は２人の車の後を付けます。それからまもなく佳乃は死体で発見されます。

こうしてミステリー風に幕を開けるものの、実際はミステリーとしての魅力は
あまりない映画です。最初のうち佳乃の殺害状況は明らかにされないものの、
ほとんどの観客は真犯人が早いうちにわかってしまいます。

むしろこの映画の魅力は、祐一のラブストーリーにあります。相手は出会い系
で知り合った光代という女。２人の逃避行がドラマの大きな柱になります。

そこでの人物描写が秀逸です。祐一は、極悪人ではありません。不器用さが災
いして、ふとしたことから過ちを犯してしまいます。だからといって、悲劇の
ヒーローでもありません。彼が背負った不幸な生い立ちが描かれるものの、そ
れを前面に出して観客の同情を買うようなことはありません。良い面も悪い面
もありのままに、等身大の祐一をリアルに描き出していきます。

一方、光代は閉ざされた環境の中で、平凡すぎる毎日を送り、孤独に押しつぶ
されそうになっています。そこに現れた祐一と心を通わせ、離れられなくなっ
てしまいます。こちらも一面的ではない厚みのある人物描写です。

そんな２人の逃避行だから、絵空事ではなく、誰にでも起こる可能性のある出
来事として受け止められます。ほんのちょっとしたはずみで、誰もが祐一や光
代になってしまう可能性があることを実感させられます。

「もしも事件の前に２人が知り合っていたら」という祐一の悲痛な思いが、心
に響いてきます。彼らの心情を表現したような周囲の風景も、いっそう切なさ
を誘います。哀しくて切ない逃避行です。

さらに事件に関係する様々な人間を描くことで、人間の本質や現代社会の表情
まで活写しているのがこの映画の素晴らしいところ。特にマスコミに追われ、
悪徳商法に騙される祐一の祖母と、いいようのない怒りの矛先を、娘を放置し
た増尾に向ける佳乃の父に焦点を当てて、人間の弱さや生きることのつらさを
描き出しています。孤独を抱え、薄っぺらな人間関係に依存し、すべてを他人
事として面白がる今という時代も、的確に表現しています。

ラストは観客に判断を委ねる終わり方。祐一はやはり悪人だったのか、それと
も……。

セリフだけでなく体全体で感情表現をした妻夫木聡と深津絵里の好演に加え、
岡田将生、満島ひかり、樹木希林、柄本明、宮崎美子、塩見三省などの脇役陣
も見事な演技でした。

犯罪者の逃避行のドラマは、これまでにもたくさん描かれてきましたが、切な
い恋愛劇に加え、人間の奥底にある業と現代の社会状況を見事に活写した点で、
特筆すべき映画です。

≪ぽちの満足度≫
★★★★☆（＋1／2★）

≪ぽちのオススメ度≫
★★★★☆
（脚本・演出といい、役者の演技といい、個人的には今年の日本映画の上位に
ランクされる映画。見応え十分です。）
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（田中ひろあき（ぽち））

2010年9月11日（土）シネマ・ロサにて。午後1時30分の回

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