バグダッド・カフェ/ニュー・ディレクターズ・カット版
(BAGDAD CAFE)


(2008年 ドイツ)(上映時間1時間48分)
監督:パーシー・アドロン
出演:マリアンネ・ゼーゲブレヒト、CCH・パウンダー、ジャック・パランス、
クリスティーネ・カウフマン、モニカ・カローン、ダロン・フラッグ、ジョー
ジ・アグィラー、G・スモーキー・キャンベル、ハンス・シュタードルバウアー、
アラン・S・クレイグ
*ユーロスペースほかにて公開
ホームページ http://www.bagdadcafe.jp/
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

<ストーリー>
アメリカの片田舎の砂漠にあるさびれたカフェ兼モーテル兼ガソリンスタンド
の「バグダッド・カフェ」に、ドイツ人女性のジャスミン(マリアンネ・ゼー
ゲブレヒト)がやってくる。彼女は旅行の途中で夫と喧嘩別れして、車を降り
て一人で歩いてきたのだった。バグダット・カフェの女主人ブレンダは、いつ
も不機嫌で客を怒鳴り散らし、ついに夫も追い出していた。宿泊を希望するジ
ャスミンにけんか腰で応対し、その後も冷たい態度のブレンダ。だが、次第に
ジャスミンと親交を深め、2人で店を盛り上げていく……。

<レビュー>
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
名曲「コーリング・ユー」とともによみがえるあの名作
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

オリジナルは1987年の製作。日本では1989年に公開されて大ヒットし、ミニシ
アター・ブームを巻き起こした作品です。すでにそのノーカット版は完全版と
して1994年に製作されていましたが、今回、さらに、アドロン監督自らがオリ
ジナル版を再編集し、色・構図を修正した「ニュー・ディレクターズ・カット
版」が登場しました。

冒頭は砂漠で立ち往生する車。そこに乗っているのはドイツ人夫婦。2人は大
喧嘩し、妻のジャスミンは車を降りてトランクを引きずって歩き始めます。そ
して着いたのがさびれたカフェ兼モーテル兼ガソリンスタンドの「バグダッ
ド・カフェ」。そこでは、いましがた女主人のブレンダが夫を追い出したばか
りでした。宿泊したいというジャスミンに、けんか腰で応対するブレンダ。

こうしてバグダッド・カフェに滞在することになったジャスミンは、勝手にオ
フィスを掃除するなど何かと世話を焼くものの、ブレンダをいっそう不機嫌に
するばかりでした。それでも、ピアノばかり弾いているブレンダの息子や遊ん
でばかりいる娘、バーテンダー、ハリウッドから来た画家などのカフェに集う
人々は、ジャスミンの存在によって少しずつ変わっていきます。そしてブレン
ダもいつの間にかジャスミンと心を通わせ、2人で店を繁盛させるのでした…
…。

2人の女の友情と、それによってさびれた店が砂漠のオアシスに変わっていく
ところが、独特のタッチで描かれた映画です。今ではスタンダードナンバーと
なった主題歌「コーリング・ユー」に象徴されるように、初めのうちスクリー
ンを覆うのは、けだるく切ない雰囲気。それがジャスミンという女性の力でジ
ワジワと変化していきます。

マリアンネ・ゼーゲブレヒト演じる太目のドイツ人女性ジャスミンのキャラク
ターが秀逸です。ブレンダが警戒したように、最初は不気味な雰囲気さえ漂わ
せているのに、だんだんキュートでかわいい天使のような女性に見えてくるか
らアラ不思議。一方、CCH・パウンダー演じるブレンダも、前半の不機嫌さと後
半の明るい女店主ぶりの対照が絶妙(この人、この作品をきっかけにテレビの
『ER』をはじめ幅広く活躍するようになりました)。さらに、ジャック・パラ
ンス演じる画家も存在感がありますね。

セリフは必要最小限のみ。登場人物の背景などもほとんど語られません。むし
ろユニークなアングルや豊かな色彩感覚など、映像の力で見せていくのがこの
映画の特徴です。何しろ、舞台になるのはバグダット・カフェのみ。その点、
今回のデジタルリマスターによって、魅力がさらにアップしました。砂漠に立
つカフェの寒々とした姿、鮮やかな夕景、ジャスミンのイメージの世界など、
色彩の鮮やかさが引き立ちます。

ジャスミンの夫が置いていったポット、後半に店を繁盛させるきっかけになる
手品など、細かな設定もよく考えられています。

以前、一度ビデオで観たので、後半ジャスミンがピンチになるあたりまでは覚
えていたのですが、その後の展開は予想外でした。まるでミュージカルのよう
な楽しい場面が展開するんです。そして、その後にはロマンスまで……。しか
も、最後はきちんと2人の女の友情へと落とし込んでいく結末。

ほほえましくて、心温まる映画。ユーモアにもあふれています。いやぁ〜、名
作は何年経っても色あせませんね。ていうか、前より色がきれいになってるわ
けだし。これは必見でしょう。

≪ぽちの満足度≫
★★★★☆

≪ぽちのオススメ度≫
★★★★☆
(独特の雰囲気を持つ名作。名曲「コーリング・ユー」も素晴らしい。まだ観
たことのない人はもちろん、昔観た人もぜひ。)
                             (田中ひろあき(ぽち))

〔鑑賞データ〕
2009年12月6日(日)ユーロスペースにて。午後2時20分の回


[「は」のページ]