|
BOY A（BOY A）
（2007年 イギリス）（上映時間1時間47分）
監督：ジョン・クローリー
出演：アンドリュー・ガーフィールド、ピーター・ミュラン、ケイティ・ライ
オンズ、ショーン・エヴァンス、アルフィー・オーウェン、シヴォーン・フィ
ネラン、ヴィクトリア・ブレイジャー、スカイ・ベネット
＊シネ・アミューズにて公開。順次全国公開
ホームページ http://boy-a.jp/
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
＜ストーリー＞
イギリス、マンチェスター。24歳の青年（アンドリュー・ガーフィールド）が
刑務所を出所し、"ジャック"という新しい名前を与えられ、過去を隠して新生
活を始める。ソーシャルワーカー、テリー（ピーター・ミュラン）のサポート
を受けながら、運送会社に就職して仲間や恋人もできるのだが……。
＜レビュー＞
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
重罪を犯した青年の悲劇を通して鋭い問題を提起した秀作
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「もう十分反省しているのだから、過去の過ちは許しましょう」。そう口では
言っても、実際に過去に過ちを犯した人間を許せるかどうかは難しいところ。
そんな難しいテーマにズバリと切り込んでいるのがこの映画。『ダブリン上
等！』のジョン・クローリー監督が、長い刑期を終えて社会復帰した青年の悲
劇を描きます。
映画の冒頭は刑務所から出所した24歳の青年が、ソーシャルワーカーから「ジ
ャック」という新しい名前を与えられ、「過去の君はもう消えたんだ」と励ま
されます。そして、青年は下宿を決め、仕事に就いて新生活をスタートさせま
す。やがて、仲間も恋人もできた青年ですが、やがて彼の過去が明らかになっ
たことで、衝撃の結末へと続いていきます。
主人公が重罪を犯したことは最初からわかるものの何をやったのかはなかなか
明らかになりません。現在進行形の物語の合間に、チラチラと昔の出来事がは
さみ込まれて、少しずつ事実が見えてくるという仕掛け。後半になって、どん
な犯罪かがわかっても、その犯行シーンはラスト近くまで見せません。
しかも、この主人公は犯罪者というイメージとはまったく違って、とってもナ
イスガイ。優しいし、控えめ、他人に対する思いやりも人一倍あります。
おかげで、観客は「いったいこの青年が何をしたのだろう？」と謎を持ち、同
時に新生活を楽しみながらも、自分を偽って生きることに苦悩する彼に共感し
ていきます。見るからに極悪な主人公だったらこうはいかないでしょう。この
へんの設定と構成が見事ですね。
主人公の過去の過ちについても、複雑な背景を持たせています。イジメられっ
子で家庭にも問題があって孤独だった彼が、ようやく友達になったのがワルの
子供。とはいえ、その彼にも複雑な家庭環境があったりするので、簡単に判断
が下しにくくなっています。
物語の後半には大きな波乱が待ち受けています。その波乱をもたらしたのが主
人公を支えるソーシャルワーカーの息子だという展開も、よく考えられていま
すね。
そこからは過去の過ちを抱えた人物に対する、周囲の反応がシビアに描かれま
す。それは物語の中の出来事ではあるものの、同時に観客に向かって投げられ
た大きな問題提起でもあります。
「あなただったら、この青年にどう接しますか？彼を許すことができます
か？」
抑制的に、淡々と主人公たちを描くことで、つくり手の主張を押し付けたりせ
ず、あくまでも問題提起に徹しています。観終わって、多くのことを考えさせ
られる映画です。
主人公の青年を演じたアンドリュー・ガーフィールド、そしてソーシャルワー
カーを演じたピーター・ミュランが印象的な演技を見せています。
《ぽちの満足度》
★★★★☆
《ぽちのオススメ度》
★★★☆☆（＋1／2★）
（国境や時代を越えた普遍的で重い問題提起をした秀作。観終わってズシリと
重いものが残ります。）
（田中ひろあき（ぽち））
〔鑑賞データ〕
2008年11月19日（水）シネ・アミューズにて。午後4時20分の回
[「アルファベット」のページ] [「ほ」のページ] |
|
