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クラッシュ（CRASH）
（2005年 アメリカ）（上映時間１時間52分）
監督・原案・脚本・製作：ポール・ハギス
出演：サンドラ・ブロック、ドン・チードル、マット・ディロン、ジェニフ
ァー・エスポジト、ウィリアム・フィットナー、ブレンダン・フレイザー、テ
レンス・ハワード、サンディ・ニュートン、ライアン・フィリップ
＊ シャンテ・シネ、新宿武蔵野館ほかにて全国公開
ホームページ http://www.crash-movie.jp/
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＜ストーリー＞
ロサンゼルスの深夜のハイウェイでロス市警の刑事グラハム（ドン・チード
ル）と同僚が交通事故に巻き込まれる。車から降りたグラハムは、事故現場脇
で若い黒人男性の死体が発見されたことを知る。その前日、ペルシャ人雑貨店
商と娘は、護身用の拳銃を買いに行くが、イラク人と間違われ不愉快な思いを
する。一方、人種差別されることにイラついた２人の黒人青年が、白人女性と
地方検事の夫の車を強奪し逃走する。同じ頃、白人警官のライアンは、パト
ロール中に黒人夫婦に言いがかりをつけ、妻にセクハラまがいの身体検査をす
る……。
＜レビュー＞
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人間の複雑な内面と微かな光明を描いた奥深い群像劇
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ロスのわずか１日に起きた出来事を描いた群像劇。クリント・イーストウッド
監督の『ミリオンダラー・ベイビー』の製作・脚本でアカデミー賞候補となっ
たポール・ハギスが監督デビューを飾った作品です。
群像劇というと、いろんな人が入り乱れてゴジャゴジャしたり、「もっと深い
ところまで描けよ〜」というツッコミ不足の作品が多いのですが、これはかな
り完成度の高い映画。群像劇が陥りがちな欠点がほとんど感じられません。
登場するのは、地方検事夫妻、TV番組のディレクター夫妻、車強盗と犯人を追
う警察官たち、鍵屋の男、移民の雑貨屋店主とその家族などなど。
ある交通事故（クラッシュ）をきっかけに、人種も階層も異なり、それぞれが
様々な事情を抱える人々の複雑な心情が明らかになっていきます。
最も前面に出てくるのは人種差別の問題です。それもありがちな描き方ではあ
りません。人種差別する気などないのに、ちょっとしたきっかけでとんでもな
い事件を起こしたり、その逆に根っからの人種差別主義者が黒人の命の恩人に
なったり……。
けっして悪意はないのに、どんどんカラ回りして相手を傷つけてしまう人々の
姿に、差別という問題の根深さを思い知らされます。 「（―へー；）
差別される側の人たちも、やみくもに反逆したり、どうにかして白人に同化し
ようとしたり様々です。
暴力や家族の愛憎、孤独感、ストレスなど現代の都会人にとって、避けては通
れない問題もたくさん登場します。
とにかく複雑なんですよ。勧善懲悪とか、白黒はっきりとか、そういう物語で
はありません。それをきちんと描ききって、現代の都会に生きる人々の愛と憎
しみ、悲しみ、怒りなどをきちんと伝えるポール・ハギス監督。
セリフはもちろんですが、それ以外の行間で、登場人物の心理をジワジワ〜と
伝えていくところが素晴らしい。脚本、演出ともにかなりの出来。とても初監
督作品とは思えません。
それにしても、やるせないよなぁ〜。人間って愚かだよなぁ〜。観ていてツラ
クなっちゃいますよ。悪意がなくても、人といさかいを起こし、感情の行き違
いに悩み、お互いに傷つけあってしまう。そんな現代社会の病巣をクッキリと
見せつけられてしまいました。
な〜んていうと、生きるのが嫌になっちゃう映画のようにも思えますが、けっ
してそうではありません。ところどころにホッとできるシーンが散りばめられ
ていて、どん底の絶望感はありません。黒人の少女を天使に見立てたところな
んて、心にポッと灯りがともる感じだもんねぇ〜。
ラストも温かな余韻の残る終わり方。ＴＶプロデューサー夫妻の「愛してる」
という何気ない言葉に、生きていくうえでの光明を見出す気がしました。
俳優陣もなかなかの顔ぶれです。
サンドラ・ブロック、マット・ディロン、『ホテル・ルワンダ』で存在感を見
せたドン・チードル、ブレンダン・フレイザー、ライアン・フィリップ、サン
ディ・ニュートンなど、実に幅広い顔ぶれでハギス監督の意図を巧みに表現し
ています。
群像劇としての完成度はバツグンなので、その手の映画が苦手な人もＯＫでし
ょう。現代を生きる人なら誰でも、必ずどこかに共感できる奥深い映画です。
「うーん」とうなったあとで、「それでも人生捨てたもんじゃない」と希望を
見出しましょう。
《ぽちのオススメ度》
★★★★☆
（群像劇がそれほど好きでないボクですが、この作品は別格。かなり充実した
力作でした。）
＜ぽち＞
〔鑑賞データ〕
2006年２月16日（木）シャンテ・シネにて。午後１時35分の回。
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