ディア・ハンター(THE DEER HUNTER)


(1978年 アメリカ)(上映時間3時間3分)
監督:マイケル・チミノ
出演:ロバート・デ・ニーロ、クリストファー・ウォーケン、ジョン・サヴ
ェージ、ジョン・カザール、メリル・ストリープ、ジョージ・ズンザ、チャッ
ク・アスペグレン、シャーリー・ストーラー、ルターニャ・アルダ
*ユニバーサル・ピクチャーズ・ジャパンよりDVD発売
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<ストーリー>
1968年、ペンシルバニア州の小さな工場で働くマイケル(ロバート・デ・ニー
ロ)、ニック(クリストファー・ウォーケン)、スティーブン(ジョン・サヴ
ェージ)の3人は徴兵されてベトナム戦争に行く。1970年、ベトナムで3人は
北ベトナム軍の捕虜となり、ロシアン・ルーレットを強要されるが、一瞬のス
キを狙いどうにか逃走する。2年後、マイケルは故郷に帰るが、ニックがベト
ナムで生きていることを知ると再びベトナムに飛ぶ……。

<レビュー>
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戦争の狂気をあぶりだした哀しく切ない名作
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井筒和幸監督が、「結局のところ戦争映画には、戦争肯定映画と反戦映画しか
ない」という趣旨の発言をしていたと思う。前者は直接的ではないにしても戦
争を美しく描くし、後者はその残虐性を映し出す。

それを明確に見せたのが、井筒監督による『パッチギ! LOVE&PEACE』だ。劇
中に登場する在日コリアンのキョンジャが出演した映画『太平洋のサムライ』
は、反戦がテーマだと主張しつつ、実際は「誰かの犠牲になって死ぬのは美し
い」ことを描く。石原慎太郎の手になる『俺は、君のためにこそ死ににいく』
をはじめ、昨今の日本の戦争映画そのもののような映画だ。

それに対して、キョンジャの亡き父親の若き日のドラマとして描かれる戦争
シーンには、「死ぬことの美しさ」などまったくない。惨たらしく死んでいく
人々との対比で、徹底して死を拒否し、何が何でも生き抜こうとする青年の苦
難を描いて、戦争の非人間性をあぶりだしている。

マイケル・チミノ監督の名作『ディア・ハンター』はどちらか? 当然ながら
後者だ。そこに戦争を美しく描こうなどという意図は微塵もない。

それを端的に示すのが有名なロシアン・ルーレットのシーンである。戦場で敵
方の北ベトナム兵に捕まったマイケル、ニック、スティーヴンという3人のア
メリカ兵が、ロシアン・ルーレットを強制される。その迫真性はタダモノでは
なく、観ているこちらにまでその恐怖が伝わってくる。

北ベトナム兵がアメリカ兵をいたぶるといった、形式的なスタイルはここでは
関係ない。敵も味方も越えて、戦争の持つ残忍性や狂気がリアルに浮かび上が
ってくる。

その後、紆余曲折を経て、マイケルは無事に国に帰還する。しかし、スティー
ヴンは両足を失い、心に深い傷を負って病院暮らしをする。そして、ニックは
……。

まったく違った人間に変質したニックと、彼を救いたい一心のマイケルによっ
て行われるクライマックスのロシアン・ルーレットが実にやるせない。これを
観て、「戦争は必要悪だ」とか、「戦争にも良い戦争と悪い戦争がある」など
と語る人間を、ボクは信用しない。そんなヤツは外国の傭兵にでもなって自分
で戦場に行ってみるがいい。

こうした残酷な戦場シーンを引き立たせるのが、前半で描かれる3人の若者と
周囲の人々の生き生きとした日常だ。

工場で働くスティーヴン、マイケル、ニックたち。スティーヴンの結婚式とそ
れに続くダンスパーティー。そして、マイケルやニックたちが出かけた鹿狩り。
若者らしい無軌道さと、まばゆいばかりの輝きにあふれたその姿が、一転して
戦場の狂気の中に放り込まれる。その両極端が心を揺さぶる。

映画のラストが「ゴッド・ブレス・アメリカ」の合唱で締めくくられるのも、
印象的だ。もちろん、これはアメリカという国家に対する賛美ではない。国家
による犠牲者を悼む歌であると同時に、国家に翻弄されながらも、国家への忠
誠を示す歌を歌わざるを得ないアメリカ人たちの哀しさを描いた皮肉なシーン
である。

ダンスパーティーのシーンなど、やや冗長な部分もないではないが、3時間と
いう長さをまったく感じさせない圧巻の演出。そして、3人の若者を演じたロ
バート・デ・ニーロ、クリストファー・ウォーケン、ジョン・サヴェージの気
迫にあふれた演技が見事だ。ジョン・ウィリアムスによるアコースティックギ
ターのテーマ曲も素晴らしい。戦争映画の名作!!!

* アカデミー作品・監督・助演男優(クリストファー・ウォーケン)・音響・
編集賞を受賞。

《ぽちの満足度》
★★★★☆(+1/2★)

《ぽちのオススメ度》
★★★★☆(+1/2★)
(リアルに戦争の恐怖をあぶりだした映画。切なさに涙。必見!)

                            <ぽち>
〔鑑賞データ〕
2007年6月11日(月)ユナイテッド・シネマ豊洲にて。特別試写会。


[「て」のページ]




ディア・ハンター
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ロバート・デ・ニーロ
クリストファー・ウォーケン
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