フローズン・リバー(FROZEN RIVER)


(2008年 アメリカ)(上映時間1時間37分)
監督・脚本:コートニー・ハント
出演:メリッサ・レオ、ミスティ・アッパム、チャーリー・マクダーモット、
マーク・ブーン・ジュニア、マイケル・オキーフ、ジェイ・クレイツ、ジョ
ン・カヌー、ディラン・カルソーナ、マイケル・スカイ
*シネマライズほかにて公開。順次全国公開
ホームページ http://www.astaire.co.jp/frozenriver/
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<ストーリー>
カナダ国境に近い、ニューヨーク州最北端の町でトレーラーハウスで暮らすレ
イ(メリッサ・レオ)は、新居の購入費用を夫に持ち逃げされ、2人の息子とと
もに途方にくれていた。そんな中、レイはひょんなことからモホーク族の女性
ライラ(ミスティ・アッパム)と知り合う。彼女は、義理の母に奪われた幼い
息子をいつか取り戻そうと、不法移民をアメリカに密入国させる仕事を請け負
っていた、金が必要なレイはライラとともに違法なビジネスに手を染めるのだ
が……。

<レビュー>
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2人の母親の過酷な人生とその先に見えるかすかな希望
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2人の母親の物語です。
1人は、夫に新居の購入費用を持ち逃げされ、2人の子供を抱えて毎日の生活
費にも困っているレイという女性。
もう1人は、夫に先立たれ、幼い子供を義母に奪われた先住民のライラという
女性。こちらもかなりの貧乏です。

アメリカ社会の底辺に位置するこの2人の女性が、逆境をハネのけて幸せにな
る感動のドラマ……ではありません。

実は、ライラは車でアメリカとカナダの国境を越えて、トランクに乗せた密入
国者を運ぶ裏の仕事をしています。たまたま彼女と知り合ったレイが、その仕
事現場に立ち会ったことから、彼女もまたそのビジネスに深入りするようにな
ります。

タイトルにある「フローズン・リバー」とは、冬の間凍結した川。2人は密入
国者を運ぶために、警備の緩いその川を危険を冒して車で渡るのでした。雪と
氷に覆われた一帯は、過酷な彼女たちの人生そのものを表現しているような場
所です。

レイもライラも、過酷な生活の中で心がささくれ立っています。2人の出会い
からして険悪なものでした。その後も2人はお互いに反発しあいます。それで
も、生きるためになりふり構わず、必死で前に進んでいきます。

この映画が長編デビューとなるコートニー・ハント監督(女性)は、彼女たち
の姿をリアルに生き生きと描き出します。「子供を思う母親の美しい愛」とい
うようなステレオタイプな描写とは無縁。キレイ事は一切ありません。

派手な場面もなく、抑制的な描写が続きます。同時に、映像には独特の緊張感
が張り詰めています。それを通してレイとライラの心の微妙な揺れ動きがヒシ
ヒシと伝わってきます。母親としてのたくましさと同時に弱さもきちんと描か
れています。

その後、ビジネスは順調に進み、レイの新居購入費用ももう少しで貯まりそう
になります。だが、そこで転機が訪れます。

そこでのレイとライラの選択が心にズシリと響きます。どちらにとっても難し
い選択ですが、その末に見えるのは希望の光です。

いったいどんな結末なのか。正直なところ、もっと過酷な結末を予想していた
のですが、良い意味で予想を裏切られました。フローズン・リバーの氷をジワ
リと融かすような、しみじみとした温かさを感じさせるエンディングでした。

レイを演じたメリッサ・レオは、この演技で第81回アカデミー賞主演女優賞に
ノミネートされました。冒頭の疲れきった顔のアップからラストまで、実に存
在感があります。また、ライラ役のミスティ・アッパムのさりげない演技も見
事です。

2008年のサンダンス映画祭でグランプリを受賞するなど、数々の賞を獲得した
この映画。その評価もうなずける出来です。派手さはまったくありませんが、
最後までスクリーンから目が離せませんでした。

《ぽちの満足度》
★★★★☆

《ぽちのオススメ度》
★★★★☆
(2人の母親の過酷な人生とその先のかすかな希望を描いたリアルなドラマ。
静かに心を揺さぶられます。)
                             (田中ひろあき(ぽち))

〔鑑賞データ〕
2010年1月30日(土)シネマライズにて。午後2時50分の回。


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