|
不灯港
（2009年 日本）（上映時間1時間41分）
監督・脚本：内藤隆嗣
出演：小手伸也、宮本裕子、広岡和樹、ダイアモンド☆ユカイ、麿赤兒
＊ユーロスペースほかにて公開。順次全国公開
ホームページ http://manzo-movie.jp/
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
＜ストーリー＞
小さな港町の漁師、万造（小手伸也）は、38歳で独身の一人暮らし。嫁が欲し
い彼は、漁師限定のお見合いパーティに参加するが、誰からも相手にされず失
敗に終わる。だが、そんな彼の家に侵入者が現れる。逃げた男の子供を連れた
美津子（宮本裕子）だった。２人を家に住まわせる万造。美津子に夢中になっ
た万造は、幸せな気分を味わうのだが……。
＜レビュー＞
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
独身中年漁師の恋の顛末を不思議な笑いに包んで描く
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
第18回ＰＦＦスカラシップ作品です。ＰＦＦスカラシップというのは、若手映
画監督の登竜門ぴあフィルムフェスティバルに出品した監督の中から、将来有
望な人に長編映画製作の機会を与えるもの。過去のラインナップには、『アフ
タースクール』の内田けんじ、『かもめ食堂』の荻上直子など、そうそうたる
顔ぶれの監督が名を連ねています。
最初にチラシを見た時には、てっきりドキュメンタリー映画だと思ってしまい
ました。だって、主人公の万造ったら、どっから見ても本物の漁師の風貌。ま
さか役者だなんて思いませんでした。
でも、実際は小手伸也という役者さん。そして、彼が演じる万造は、38歳の独
身男。嫁が欲しくてたまらないものの、なかなかそのチャンスがなく寂しい
日々。そんなある日、漁師限定のお見合いパーティーに参加するものの、まっ
たく相手にされず撃沈。ところが、自宅で撮ったアピールビデオに見知らぬ女
の顔が……。逃げた男の連れ子を抱えた美津子という女が勝手に侵入していた
のだ！
万造のキャラクターが抜群に面白いんです。無口で時代錯誤のファッション
（赤いバラをポケットにさして飲みに行ったり……）、口を開けばキザなセリ
フばかり（「花瓶で枯れたいと思う花はないよ」とか）。ただそこにいるだけ
で、脱力系の笑いを巻き起こしてしまう存在なのです。
いえいえ、彼だけではありません。この映画、セリフが極端に少ないのですが、
数少ないセリフがみんなヘンなセリフ。「現実にそんなこと絶対に言わないよ
〜」てなクサいセリフや、紋切り型のセリフのオンパレードです。
最初は脚本がド下手なのかと思ったのですが、どうやら、わざとやっているよ
うです。おかげで、オフビートのユル〜イ笑いが全編に流れます。最初から最
後までクスクス笑いが続きます。
美津子とその連れ子と3人の生活を始めた万造。念願の家族を持って、幸せ気分
に浸ります。ところが、少しずつほころびが見え始めます。そして、やがて起
きる事件。本来なら哀しい展開ですが、それもまたクスクス笑えてしまうから
面白いもの。
それにしても、なんという独特の世界なのでしょう。毎日新聞の勝田友巳記者
が、アキ・カウリスマキ監督などの北欧風映画に共通する味わい、と表現して
いますが、確かにカウリスマキ的なテイストが感じられます。しかし、それと
も微妙に違います。ほかにはあまり見られない不思議な世界です。
主演の小手伸也のほかには、美津子役の宮本裕子の小悪魔ぶりが印象的。私も、
ダマされてしまいそうです（笑）。昔、舞台「ピーター・パン」の第4代ピー
ター・パンだったそうです。麿赤兒の怪演も笑えます。
残念なのは、まだ長編に慣れていないせいか、途中でやや失速しているところ。
それに万造の悲哀や美津子の葛藤など、人間ドラマ的にもう少し深みが出てく
れば言うことなしなのですが。
とはいえ、内藤監督が得がたい才能の持ち主なのは間違いなし。まだ20代だし、
これからどんな方向に進んでいくのか楽しみです。ひょっとして大化けするか
もネ。
《ぽちの満足度》
★★★☆☆
《ぽちのオススメ度》
★★★☆☆
（独特の笑いに満ちた不思議な映画。将来大ブレイクするかもしれない監督な
ので、今のうちから注目しておいても損はないでしょう。）
（田中ひろあき（ぽち））
〔鑑賞データ〕
2009年7月19日（日）ユーロスペースにて。午後2時30分の回
[「ふ」のページ] |
|