冬の小鳥(A BRAND NEW LIFE)


(2009年 韓国・フランス)(上映時間1時間32分)
監督・脚本:ウニー・ルコント
出演:キム・セロン、パク・ドヨン、コ・アソン、パク・ミョンシン、ソル・
ギョング、ムン・ソングン
*岩波ホールにて公開
ホームページ http://www.fuyunokotori.com/
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<ストーリー>

1975年の韓国。9歳のジニ(キム・セロン)は、大好きな父(ソル・ギョン
グ)に連れられて、ソウル郊外へやって来る。何もわからないまま、ある施設
の門をくぐるジニ。やがて父は黙って施設を後にする。そこは、孤児が集まる
カトリックの児童養護施設だった。父が必ず迎えに来てくれると信じるジニは、
初めのうち頑なに心を閉ざして、周囲に反発する。そんなジニを先輩のスッキ
(パク・ドヨン)が気にかけ、何かと世話を焼く。少しずつ心を開き始めるジ
ニだったが……。

<レビュー>
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父に捨てられた少女の心の軌跡を繊細に描き出す
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1970年代の韓国。大好きな父親に捨てられて養護施設に入った少女が、戸惑い、
周囲に反抗しながらも、やがて新しい人生を踏み出していくまでを描いたドラ
マ。監督・脚本を担当したウニー・ルコントの自伝的作品です。

劇的な感動物語にすることを避け、丹念にそして繊細に主人公ジニの心理を描
き出しているのが印象的。ジニの心情が痛いほど伝わってきます。まだ幼いジ
ニは、自分の感情をうまく表現できません。しかし、その表情、特に瞳が雄弁
に彼女の心を語ります。大好きな父親に捨てられた困惑と悲しみ。それでも、
必ず父が迎えに来ると信じる強い思い……。

父が迎えに来ると信じるジニは、自分は他の孤児たちとは違うと考えて、なか
なか周囲に溶け込もうとしません。

しかし、まもなくスッキという先輩がジニを気にかけ、面倒を見るようになり
ます。ほほえましい交流によって、少しずつ心がほぐれていくジニ。

ところが、そのスッキはやがてアメリカ人夫婦の養子となって施設を出て行っ
て、ジニはまた一人ぼっちになってしまいます。しかも、どんなに待っても父
が迎えに来ることはないという厳然たる事実を突きつけられてしまいます。そ
こで、ジニはどんな行動に出たのか……。

ジニが生まれ変わるために、自分を埋葬するシーンが衝撃的です。スッキとと
もに小鳥を埋葬したシーンが伏線になったこのシーン。あまりにも痛切で息を
飲みます。土の中から現れた顔、青空、記憶の中の父親。その瞬間、ジニは紛
れもなく新しく生まれ変わったのです。

そしてジニは新しい人生に足を踏み出していきます。

劇中で、早く養子になれるように無理にいい子を演じて、媚びを売ろうとする
子どもたちの姿が心を揺さぶります。そんな境遇に子どもを追い込む社会の理
不尽さも浮き彫りになります。

ですが、監督が描きたかったのは、社会の荒波に必死で耐えて、自ら大人への
道を歩み出していく少女の心の軌跡そのものでしょう。傷つき、挫折し、もが
き苦しみながらも、運命を乗り越えて毅然として前に進んでいく少女に圧倒さ
れます。

同時に、それは彼女だけでなく、観客一人ひとりのドラマでもあるのです。こ
の映画が単なる孤児の悲しい物語にとどまらない、より深く普遍的なドラマに
昇華しているのはそのせいです。

ラストのジニの様々な思いのこもった瞳が、いつまでも忘れられません。

≪ぽちの満足度≫
★★★★☆

≪ぽちのオススメ度≫
★★★☆☆(+1/2★)
(繊細な心理描写は必見。一人の少女の心の軌跡に圧倒される作品。)
                             (田中ひろあき(ぽち))

〔鑑賞データ〕
2010年10月23日(土)岩波ホールにて。午後5時30分の回


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