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春との旅
（2010年 日本）（上映時間2時間14分）
監督・原作・脚本：小林政広
出演：仲代達矢、徳永えり、大滝秀治、菅井きん、小林薫、田中裕子、淡島千
景、柄本明、美保純、戸田菜穂、香川照之
＊新宿バルト9ほかにて全国公開
ホームページ http://haru-tabi.com/
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＜ストーリー＞
北海道・増毛の海辺のあばら家で暮らす忠男（仲代達矢）と孫娘の春（徳永え
り）。ある日、春が給食職員として勤務していた小学校が廃校となったことか
ら、２人は生活に行き詰ってしまう。そこで忠男は春を連れて、自分の受け入
れ先を求めて、疎遠となっている姉兄弟たちを訪ね歩く旅に出る。だが、行く
先々で再会する姉兄弟はそれぞれの事情で忠男の面倒を見ることはできず、過
去の確執も再燃する。そんな忠男の姿を目にした春は、離別した父親に再会し
たい思いが芽生えるのだが……。
＜レビュー＞
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家族の微妙な絆を描いた祖父と孫娘のロードムービー
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小林政広監督といえば、外国の映画祭でも賞を獲得している才能ある監督です
が、作品がかなり個性的なため、苦手な観客も多いようです。特にイラクの人
質事件をモチーフにした『バッシング』は、賛否両論を呼びました（ちなみに
私は絶賛）。
今回はそれに比べればかなり観やすい映画です。物語は祖父と孫娘のロード
ムービー。とはいえ、最初はほのぼのムードとは無縁。怒りまくって家を出て
くる祖父と、慌ててついてくる孫娘。実は、家計を支えていた孫娘が失職して、
彼女がふと口にしたことがきっかけで、祖父の落ち着き先を探して旅に出るこ
とになったのです。
祖父の忠男は偏屈でワガママ（のちのち愛嬌も見えてきますが）、娘の春は不
器用で不恰好。いかにもとっつきにくい２人による旅が続きます。その間、２
人がけんかをしたり、心を通わせたり、といったあたりはロードムービーの定
番パターンにも思えますが、それほど単純なものでもありません。
最初に訪ねた兄とはケンカ。終始険悪な雰囲気が漂うものの、最後には忠男を
受け入れられない兄の事情もチラリと描かれます。
続いて訪ねた姉は本当にいい人で、忠男は受け入れないものの、春に働き口を
世話しようとします。しかし、それでもハッピーエンドには至りません。
そして３番目に訪ねた弟は、忠男に悪態をつきまくり、２人は取っ組み合いの
けんかをします。しかし、その一方で、意外なところで優しい心遣いも見せま
す。
こんなふうに、一面的ではない肉親としての様々な側面が見え隠れする再会劇
が続きます。わかりやすい展開をあえて避けて、観客にいろいろなことを考え
させようとする小林監督の意図が感じられます。
カメラワークで目立つのは長回しの多用。セリフがないところでも、なかなか
カメラが切り替わりません。また、望遠レンズによる映像もかなりの頻度で登
場します。独特の映像を通して、登場人物の繊細な心理の揺れ動きを切り取っ
ていきます。
やがて忠男と姉兄弟との再会は、春にある思いを抱かせます。それはずっと昔
に家を出て行った父と再会したいという思い。忠男に連れられて父に会いに行
く春。ここは切なくてたまらないシーンです。そして、その後に、忠男と春が
そば屋でそばを食べるシーンでは、温かなぬくもりが感じられます。
全編を通して伝わってくるのは、切れそうで切れない家族の絆の微妙さ。スト
レートな感動はないものの、より深い温かな感情が湧き上がりました。
ただし、ラストはちょっと衝撃的。ドラマの着地点としてありえる結末ですが
……。
忠男役の仲代達矢をはじめ大滝秀治、淡島千景など日本映画の歴史を築いてき
た名優の演技が素晴らしい！ その下の世代の田中裕子、柄本明、戸田菜穂、
香川照之なども存在感バツグン。そして、春役の徳永えりも仲代達矢と渡り合
って、堂々の演技を見せています。
≪ぽちの満足度≫
★★★☆☆（＋1／2★）
≪ぽちのオススメ度≫
★★★☆☆（＋1／2★）
（切なさと温かなぬくもりが感じられるロードムービー。名優たちの演技も見
事。小林監督の映画にしては観やすいと思います。）
（田中ひろあき（ぽち））
〔鑑賞データ〕
2010年5月25日（火）新宿ピカデリーにて。午後4時30分の回
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