初恋

（2006年　日本）（上映時間１時間54分）
監督・脚本：塙幸成
出演：宮崎あおい、小出恵介、宮崎将、小嶺麗奈、柄本佑、青木崇高、松浦祐
也、藤村俊二
＊シネマＧＡＧＡ！ほかにて公開
ホームページ　http://www.hatsu-koi.jp/
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＜ストーリー＞
1960年代後半。学生運動が活発化する中、高校生のみすず（宮崎あおい）はど
こにも居場所がなく孤独だった。そんなある日彼女は、突然訪ねてきた兄が残
していったマッチを頼りに、新宿のジャズ喫茶Ｂへと向かう。そこで、兄や彼
の仲間たちと出会い、親しくするうちに、初めて自分の居場所を実感する。や
がて、仲間の一人である東大生、岸（小出恵介）が、彼女にある計画を持ちか
けてくる。

＜レビュー＞
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三億円事件をテーマに、繊細で脆い少女の心をみずみずしく描いた青春映画
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1968年に日本中を震撼させたものの、結局犯人は捕まらず時効を迎えた"三億円
事件"。その犯人は女子高生で、動機は恋心だった！！！　というユニークな設
定のドラマ。歴史に残る犯罪をテーマにしただけに、ド派手な映画を想像しが
ちですが、それとは正反対の抑制的で淡々とした描写が印象的な映画です。

主人公は高校生みすず。父は幼い頃に亡くなり、母親も兄だけを連れて家を出
たため、叔母一家に引き取られている。だが、家族は冷たく、彼女の居場所は
なかった。そんなある日、突然現れた兄が残していったマッチを頼りに、新宿
のジャズ喫茶Ｂへ足を運び、そこで兄や彼の仲間たちと出会う。やがて、仲間
の一人である東大生、岸に特別な感情を持ち始める……。

みすずの岸に対する恋心が事件の動機となるワケですが、同時に権力に対する
反抗心も大きな動機となっています。なにせ時代は1960年代後半。学生運動が
どんどん盛り上がり、機動隊と学生が激しい衝突を繰り返すような時代。

ところが、そうした時代の熱気はきちんと伝わってきません。ジャズ喫茶、ア
ングラ演劇、学生運動などのシーンを織り込みながら、当時を表現しようとし
ているものの、薄っぺらな描き方にしか見えません。「革命前夜」のような雰
囲気の中、誰もがテロリストやハイジャック犯人になってしまいかねなかった
といわれる、そんなヒリヒリとした時代の表情が見えてこないのです。そこが
この映画の大きな欠点です。特に当時を知る団塊世代の観客にとっては大いに
不満かもネ。

しかし、だからといってつまらない映画ではありません。いや、むしろ心に残
るとても良い映画だと思います。

不幸な身の上で、誰にも頼りにされなかった少女が、恋をして、初めて人から
頼りにされる。それをきっかけに、犯罪に走っていく姿がごく自然に、説得力
を持って語られます。徹底してドラマチックさを排除して、淡々と描くことで、
繊細で、今にも壊れそうに脆い彼女の心理がジワジワとあぶり出されます。

宮崎あおいの演技もいいですねぇ～。ＮＨＫの朝ドラなんかより、こういう屈
折した役のほうが似合っています。塩田明彦監督の『害虫』の主人公サチ子と
共通するところを持つ役で、青春のはかなさやみずみずしさが、実によく表現
されています。

彼女の周囲の若者たちのやり場のない怒りや悲しみ、ドロドロした心情なども、
的確に描かれています。その中の一人を演じるかつての美少女、小嶺麗奈が、
いつの間にか大人の女性になっていたのにはビックリ。

ハデなシーンはまったくありません。クライマックスの三億円事件の場面さえ、
淡々と抑え目に描かれます。全体のトーンも暗く、重苦しく、どんよりとして
います。ジャズ喫茶で流れるジャズ以外は、音楽らしい音楽もありません。し
かし、それがリアルさを生み出し、青春のみずみずしさと、繊細さ、危うさな
どを巧みに表現しているのです。

監督の塙幸成は、にっかつロマンポルノ末期から助監督を務め、これが長編二
作目の監督作品だそうです。人間に対する洞察力や繊細な描写は凡庸ではあり
ません。

時代性こそうまく表現し切れなかったものの、一人の少女の青春をみずみずし
く描ききった青春映画の秀作です。当時を知らない若い人たちのほうが、素直
に受け止められるかもね。1960年代のドラマというよりも、もっと普遍的な青
春ドラマとして観てください。「時効のない心の傷」を抱えた、みすずの心情
が心を揺さぶるはず。　（´＿｀。）

《ぽちのオススメ度》
★★★☆☆（＋1／2★）
（若者たちの心情が見事に表現された青春映画。宮崎あおいの存在感のある演
技は必見！）
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　＜ぽち＞
〔鑑賞データ〕
2006年６月10日（土）池袋シネマサンシャインにて。午後５時50分の回

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