ヘヴンズストーリー


(2010年 日本)(上映時間4時間38分)
監督:瀬々敬久
出演:寉岡萌希、長谷川朝晴、忍成修吾、村上淳、山崎ハコ、菜葉菜、栗原堅
一、江口のりこ、大島葉子、吹越満、片岡礼子、嶋田久作、菅田俊、光石研、
津田寛治、根岸季衣、渡辺真起子、長澤奈央、本多叶奈、佐藤浩市、柄本明
*ユーロスペース、銀座シネパトスにて公開。全国順次公開
ホームページ http://heavens-story.com/
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<ストーリー>
両親と姉を殺され、祖父に引き取られることになった8歳の少女サト。ちょう
ど同じ頃、未成年者に妻子を殺されたトモキ(長谷川朝晴)が、テレビの中で
「たとえ法律が許しても、自分がこの手で犯人を殺す」と言い放つ姿を目撃し
たサトは、トモキを英雄として見る。それから8年後、サト(寉岡萌希)はト
モキに会いにある島へ向かうのだが……。

<レビュー>
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復讐をテーマに描いた圧巻の一大叙事詩。4時間38分飽きることなし
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なんと4時間38分の長尺のドラマ。間で10分の休憩があるとはいえ、体調の悪い
人は絶対に観られません。まさに非人道的な長さです(笑)。以前から面識の
ある瀬々敬久監督の作品でなければ、筆者とて観に行かなかったと思います。

最初に登場するのは、両親と姉を殺された少女のサト。祖父に引き取られるこ
とになった彼女は、偶然目にしたテレビの中で、妻子を未成年者に殺されたト
モキが「犯人をこの手で殺す」と宣言するのを見て、彼を英雄と考えるように
なります。サトの家族を殺した犯人はすでに自殺してしまい、彼女には復讐す
る相手がいなかったのです。やがて成長したサトは、トモキに会いに行きます。
しかし、トモキはすでに新しい暮らしを始めていて、彼女はショックを受けま
す……。

この映画のテーマは、ズバリ「復讐」です。サトとトモキ以外にも、復讐に関
わる多くの人々が登場します。アルバイトで復讐代行業を営む警官、彼に殺さ
れる男、サトの家族を殺した犯人の青年、彼に手紙を送って家族として迎え入
れる人形作家。そうしたたくさんの人々が絡み合って、「復讐」をめぐる一大
叙事詩を組み立てていきます。

4時間38分はさすがに長いものの、思ったほどは長く感じませんでした。それと
いうのも、全体を9章に分けて中心的に描く人物を変えているから。しかも、
無駄なシーンがありません。通常の2時間程度の映画ならカットしたり、セリ
フで簡単に説明してしまうような人物の背景なども、きっちりと描かれていま
す。それによって、すべての登場人物の心情がよりリアルに伝わってきます。

手持ちカメラやアップを多用した映像も、そうした繊細な心理描写を引き立て
ます。やり場のない怒りを抱えて復讐の炎を燃やすサトとトモキはもちろん、
柄本明演じるサトの祖父の号泣シーンをはじめ、それ以外の人物の心情もヒシ
ヒシと伝わってきました。

春の桜、冬の雪景色など、四季の変化を織り込みつつ、様々な場所でロケをし
た映像の美しさも出色です。

クライマックスでは、加害者VS被害者の直接対決が2度に渡って展開されま
す。しかも、2度目の対決では、加害者と被害者をクロスさせて、両者ともに
被害者であり加害者であるという立場に据える構成。壮絶なバトルを通して、
結局は復讐が何も生み出さないことを明確に伝えます。

さらに、その後には現実から離れて、ファンタジー的な展開でこの叙事詩を締
めくくります。死者が死んで終わりではなく、生きている者たちとつながって
いることを見せてくれる余韻のある結末です。

重たい素材とはいえ、観終わってけっして暗くはなりません。むしろ希望さえ
感じさせます。ラスト近くで登場するある女の出産のエピソードも、未来への
光を感じさせてくれます。

俳優陣は、佐藤浩市、柄本明といった有名どころから、シンガーソングライ
ターの山崎ハコまで多彩な顔ぶれ。その中でも、トモキ役の長谷川朝晴が被害
者の怨念を見事に表現。サト役の寉岡萌希、犯人役の忍成修吾ともども圧巻の
演技でした。地味ながらトモキの新しい妻役の菜葉菜も好演。

長い映画なのに、途中で飽きることはありませんでした。復讐の虚しさに加え、
人間の生と死など多くのことを考えさせてくれます。これほど深くて見応えあ
る映画はめったにありません。

≪ぽちの満足度≫
★★★★☆(+1/2★)

≪ぽちのオススメ度≫
★★★☆☆(+1/2★)
(破格の長さゆえ、ぜひにとは言いませんが、体力に問題のない方は十分に観
る価値のある映画です。)
                        (田中ひろあき(ぽち))

2010年10月17日(日)ユーロスペースにて。午後12時30分の回


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