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嫌われ松子の一生
（2006年 日本）（上映時間２時間10分）
監督・脚本：中島哲也
出演：中谷美紀、瑛太、伊勢谷友介、香川照之、市川実日子、黒沢あすか、荒
川良々、竹山隆範、柄本明、木村カエラ、
＊TOHOシネマズ六本木ヒルズほか東宝系にて全国公開
ホームページ http://kiraware.goo.ne.jp/index.html
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＜ストーリー＞
昭和22年、福岡県に生まれた川尻松子（中谷美紀）は、夢みる明るい少女時代
を過ごし中学校の教師となる。だが、ある事件が原因でクビに。その後は、愛
を求めて男性遍歴を重ねるたびに不幸になり、いつしかソープ嬢に身を落とし、
同棲中のヒモを殺害して刑務所に服役してしまう……。
＜レビュー＞
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超悲惨な転落人生を楽しく描いて感動までさせてしまう革命的日本映画
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前作『下妻物語』でハチャメチャなコメディーを展開しながら、少女の友情と
成長物語までキッチリ描いた中島哲也監督の作品。話は救いようのない悲惨な
物語。まるで絵に描いたような転落人生が展開されます。
主人公の松子は、夢見る少女。病弱な妹ばかり可愛がる父親が気に入らないも
のの、とりあえずは無事に成長して中学教師に。ところが、ある事件がきっか
けでクビになってしまい、それからはどんどん転げ落ちていく。いろんな男と
つきあうものの、すべてうまくいかず、ソープ嬢になり、男を殺して刑務所へ。
その後も幸せとは縁遠い生活で……。
とにかく悲惨です。かわいそう過ぎます。こんな悲惨な物語をそのままスト
レートに描かれたら、あまりのムゴさに、泣くのを通り越して、胸がムカつい
てくるんじゃないでしょうか。 （￣へ ￣
ところが、中島監督は、この超悲惨な物語をコメディータッチでおもしろおか
しく描いてしまうのです。片平なぎさ主演の２時間サスペンスを使ったり、キ
ョーレツなパンク野郎（ガレッジセールのゴリ）を登場させたり、あのテこの
テで笑わせにかかります。悲劇なのに笑えてしまうというトンデモナイ脚本＆
演出。
しかも、歌や踊りが満載のミュージカル風なつくりも全編に散りばめられてい
ます。松子役の中谷美紀はもちろん、ソープ嬢仲間に扮したボニー・ピンク、
女囚役のＡＩなどが歌い踊りまくるのです。いやはや、何ともすさまじいエン
ターティメント映画なのですヨ。 （ｏ＾∇＾ｏ）ノ
前作『下妻物語』の時と同じく、今回もアニメーション合成をはじめ様々な技
法によって、現実とはちょっと違うファンタジックな映像が展開します。その
おかげで、松子の悲惨な人生をワンクッション置いてながめられるのです。
そして、さすがにＣＭ監督出身だけに、つまらないシーンがまったくありませ
ん。すべてのシーンが過剰なまでのサービス精神に彩られ、観客の視線を釘付
けにしてしまいます。
悲惨な話を感情を排して淡々と描くことで、より深みのあるドラマにするのは
よくある手法。しかし、こんなに悲惨で救いようのない話を、これだけのエン
ターティメントにしてしまう発想は、いったいどこから出てくるのでしょう
か？ こんな不思議な映画がかつてあったでしょうか？ これはもしかしたら
革命的な映画かもしれません。
しかも、ただ楽しいだけではないのです。ちゃんと胸にグッとくるところも用
意されています。たとえば、父に疎んじられていたと思っていた松子が、父の
日記を見てその真情を知るシーン。あるいは、かつて松子をつらい目にあわせ
た元恋人が、心から後悔するシーン。
そんな中でも、ボクの心を最も揺さぶったのは、松子の甥、笙の恋人が言った
言葉。「人間の価値って人に何をしてもらったかじゃなくて、何をしてあげた
かでしょう？」
うんうん、その通りなんだよな。別にいいじゃん、何の見返りがなくたって、
人に何かをしてあげるってスッゴク幸せなことなんだよ。お人よしだとか、甘
いとか言われたったいいじゃん。
観ているうちになんだか温かな気分になってしまいました。あと味がとっても
いいんです。こんな悲惨な話なのに。 （＊´∇｀＊）
よく観ると、どん底の松子の人生にも、本人とっては幸せな時があったりしま
す。最後の最後まで悲惨な人生の終焉も、幸福な光に包まれて天国への階段を
上ったように描かれます。
どんなにダメダメな人生でも、不幸のどん底でも、生きているだけでいいじゃ
ん。子供の時の夢がかなわなくなって、気にすることはないんだよ。そんなポ
ジティブなメッセージを感じ取ってしまったのはボクだけでしょうか。
まあ、だからといって、ボクみたいな自堕落な生活を続けていいってもんでも
ないでしょうけど（笑）。
キャストも超豪華です。松子役の中谷美紀は執念さえ感じさせる演技。晩年の
松子なんてそりゃあアナタ、もはや狂気というか壮絶なもんです。その他ほん
のチラッと出演するだけの役者まで、み〜んな輝いています。谷原章介、宮藤
官九郎、劇団ひとり、武田真治、嶋田久作……。劇団ひとりの奥さん役の大久
保佳代子（オアシズで光浦靖子の相方）まで見事にフィットしてるんだよなぁ
〜。
しかし、まあ、やられましたヨ。『下妻物語』とはちょっと違ったタイプの映
画ですが、またまた中島監督にはド肝を抜かれてしまいました。考えてみれば、
世の中にそうそう目新しいストーリーなんて転がっていないもの。どんな物語
でも、やり方次第では楽しくて、心を動かせる映画がつくれることを実証した
映画といえるかもしれません。やっぱりこれは革命的映画だよね。
《ぽちのオススメ度》
★★★★☆
（いろんな意味で凄まじい映画です。一件の価値アリ。ただし、『下妻物語』
がダメだった人にはオススメできません。テンポもかなり速いので要注意。）
＜ぽち＞
〔鑑賞データ〕
2006年５月27日（土）ユナイテッド・シネマとしまえんにて。午後３時45分の回
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