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空気人形
（2009年 日本）（上映時間1時間56分）
監督・脚本・編集・製作： 是枝裕和
出演：ペ・ドゥナ、ARATA、板尾創路、高橋昌也、余貴美子、岩松了、星野真里、
丸山智己、奈良木未羽、柄本佑、寺島進、オダギリジョー、富司純子
＊シネマライズ、新宿バルト9ほかにて公開。全国順次公開。
ホームページ http://kuuki-ningyo.com/
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＜ストーリー＞
ファミレスで働く中年男、秀雄（板尾創路）は、空気で膨らむ人形に「のぞ
み」と名づけ、恋人代わりにして暮らしていた。ある朝、その人形が心を持っ
てしまい、秀雄が留守の間に街へ出るようになる。やがてレンタルビデオ店員
の純一（ARATA）とめぐり会った彼女は、同じ店で働くようになるのだが……。
＜レビュー＞
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ファンタジックなラブストーリーを通して描く孤独な人々の姿
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『誰も知らない』『歩いても 歩いても』の是枝裕和監督の新作は、ファンタ
ジックなラブストーリー。同時に、都会の片隅で生きる孤独な人々のドラマで
もあります。
一人暮らしの中年男、秀雄が一緒に暮らすのは、人間の女性の代用品として作
られた空気人形。話しかけ、一緒に風呂に入り、散歩に出かけ、まるで夫婦の
ように過ごしています。ある朝、その人形が心を持って、自分で動き出します。
秀雄の留守中に街へ出るようになり、レンタルビデオ店員の純一と知り合った
彼女は、同じ店で働くようになります。
人間の心を持って、いろいろな体験をして、生きる喜びを知った空気人形の姿
が生き生きと描かれています。説明的なところはまったくなく、詩情に満ちた
美しい映像（撮影は台湾のリー・ピンビン）とともに、彼女の心理が繊細に描
写されます。部屋の中でフワフワと浮き上がるシーンなど印象的なシーンの連
続です。
しかし、生きるということは、つらかったり、苦しかったりすることもあるわ
けで、空気人形もそうした感情を持つようになります。純一に恋したものの、
自分は人形、しかも別の男の持ち物だということで、複雑な思いに胸を痛め傷
つきます。そうした微妙な心の揺れも、巧みに表現されています。
ファンタジーらしく全編にユーモアが散りばめられています。また、官能的な
描写も見られます。過激なシーンがあるわけではありませんが、しぼんだ空気
人形に純一が息を吹き込むシーンなど、とても美しくエロティックです。
空気人形の切ないラブ・ストーリーに加えて、この映画にはたくさんの孤独を
抱えた人々が描かれています。留守電に自分を慰めるメッセージを吹き込むベ
テランＯＬ、過食症の娘、フィギュアのオタク、公園のベンチに座る老人、事
件の犯人になりたがる老女……。人形としか暮らせない秀雄もまた孤独な人間
です。
自分の中が空っぽな空気人形と、同じように体の中に空虚さを抱えた孤独な
人々は、ある意味、似たもの同士ともいえます。そうした孤独な人々の姿を通
して、人間は一人では生きられないこと、誰かとつながることが大切だという
ことに気づかされます。
やがて、空気人形に大きな転機が訪れます。そこに待っていたのは、切なくて
哀しい結末。しかし、けっして救いのない結末ではありません。むしろ明るい
希望を感じさせてくれます。空気人形の思いが孤独な人々に届く、優しくてた
まらないラストです。過酷な運命の子供たちを描いた『誰も知らない』でさえ、
ラストに希望の光を見せてくれた是枝監督らしい終わり方。
それにしても、空気人形を演じたペ・ドゥナの素晴らしい演技！透明感のある
美しさと、繊細な感情表現、そしてコミカルな味わいは彼女ならでは。彼女が
演じなければ、この映画はここまで素晴らしいものにはならなかったはず。言
葉のハンデも、この映画では逆に良い効果をもたらしています。
切ないラブストーリーを描いたファンタジーとしても、都会で生きる孤独な
人々のドラマとしても見事な映画。その２つが絡み合って、人と人とのつなが
りの大切さや生きていくことの素晴らしさが伝わってきます。
≪ぽちの満足度≫
★★★★☆
≪ぽちのオススメ度≫
★★★☆☆（＋1／2★）
（美しくし、切なくて、ホッとさせられるファンタジー。是枝監督やペ・ドゥ
ナのファンでなくとも一見の価値はあります。）
（田中ひろあき（ぽち））
〔鑑賞データ〕
2009年9月27日（日）ユナイテッド・シネマとしまえんにて。午後2時45分の回
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