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無防備
（2007年 日本）（上映時間1時間28分）
監督・脚本・編集：市井昌秀
出演：森谷文子、今野早苗、西本竜樹、中村邦晃、柿沼菜穂子、熊埜御堂彩、
朝真裕稀
＊シネマート新宿にて公開。全国順次公開
ホームページ http://www.muboubi.com/
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＜ストーリー＞
プラスチック工場で働く律子（森谷文子）は、家では夫と冷め切った関係にあ
った。そんなある日、妊婦の千夏（今野早苗）が工場に入ってくる。律子は先
輩として彼女の指導を任され、一方の千夏も律子を頼りにするようになる。だ
が、幸せそうな千夏を見ているうちに律子の過去のトラウマがよみがえり……。
＜レビュー＞
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妊婦の出現によってかき乱される女性の心理を繊細に表現
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若手映画監督の登竜門、第30回ぴあフィルムフェスティバル（ＰＦＦ）で、グ
ランプリを獲得した映画です。韓国の釜山映画祭でも最高賞を受賞しました。
市井昌秀監督は、あの人気お笑いコンビ「髭男爵」の元メンバーで、方向性の
違いから脱退して、その後は役者を目指して劇団東京乾電池の研究生となった
ものの本劇団員には残れず（そのせいか東京乾電池の若手なども出演）、２年
間のサラリーマン生活を経て映画監督に転進したそうです。
長編２作目となるこの映画は市井監督の奥さんの妊娠・出産をきっかけにつく
られた作品。もともと女優の奥さん（今野早苗）が妊婦役として出演し、彼女
の実際の出産シーンも劇中に使用されています。そのため刺激が強すぎると映
倫によってＲ−15指定されてしまいました。
物語の主人公は、工場で働く30代の主婦の律子。彼女の前にある日、千夏とい
う妊婦が現れます。お腹が大きいにもかかわらず、夫が求職中ということで働
きに来たのです。先輩として親切に彼女を指導する律子。一方、千夏も律子を
何かと頼りにするようになります。ところが、律子は過去にある出来事を経験
して、心に傷を負っています。それが千夏との出会いによって少しずつ表に現
れてきます。
いったい律子の過去に何があったのか。ネタバレといえばネタバレですが、わ
りと早いうちにわかってしまうし、謎解きがミソの映画ではないのでバラして
しまいます（知りたくない人は、この部分を飛ばして読んでください。）。か
つて律子も妊娠したものの、自動車事故で流産してしまい、それから夫との仲
もギクシャク。冷たい家庭生活を送るようになっていたのです。
それでも、よけいなことを考えないようにして、まるで機械のようにキッチリ
と仕事をしてきた律子。それが千夏という妊婦の出現によって、心に波風が立
つようになります。
そんな律子の心の揺らめきが見事に表現されているのが、この映画のツボ。奇
をてらった演出テクなどもなく、正攻法に彼女の心理を繊細に表現しています。
本質的にはいい人で、千夏を助けてあげたいと思うものの、その奥で過去のト
ラウマが彼女の心をかき乱します。幸せな千夏に対する嫉妬心、自分の現状に
対する不満や持って行き場のない怒り、悲しみ。そうしたものがジワジワとこ
ちらに伝わってきます。
主人公を演じる森谷文子は、はっきり言ってそのへんで見かける女の人という
感じですが、それがまたリアルでいいんです。感情表現もなかなか巧いし、無
名の女優さんにもこういう人がいることを実感。
そして、クライマックスは問題の出産シーン。確かに赤ちゃんが生まれてくる
ところそのものズバリですが、けっしてエグい感じはしません。むしろごく自
然だし、あのシーンがあるおかげで感動が生まれるのだと思います。必然性の
あるシーンですね。
ラストの律子の笑顔が素晴らしい！！！ あの笑顔だけで、彼女の未来に希望
があることを示唆し、観客の心もホッとさせてくれます。
低予算の映画だし、いろいろとアラは見えるのですが、それ以上に市井監督の
才能を感じさせる映画です。いやぁ〜、髭男爵をやめたのも、東京乾電池の劇
団員になれるなかったのも結果的には正解かも。次回作が楽しみです。
《ぽちの満足度》
★★★☆☆（＋1／2★）
《ぽちのオススメ度》
★★★☆☆（＋1／2★）
（心に傷を持つ女性の心理描写に感服。未熟さはあるけれど、今後が大いに期
待できる監督です。）
（田中ひろあき（ぽち））
〔鑑賞データ〕
2009年10月12日（月）シネマート新宿にて。午後3時45分の回
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