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パッチギ！ LOVE&PEACE
（2007年 日本）（上映時間２時間７分）
監督：井筒和幸
出演：井坂俊哉、中村ゆり、西島秀俊、藤井隆、風間杜夫、キムラ緑子、ラ
サール石井、でんでん、手塚理美、米倉斉加年、村田雄浩、杉本哲太
＊ 有楽町シネカノン、渋谷アミューズCQNほかにて全国公開
ホームページ http://www.pacchigi.jp/loveandpeace/
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＜ストーリー＞
1974年、息子チャンスの病気治療のため京都から東京へ引っ越してきたアンソ
ン（井坂俊哉）は、ある日、駅のホームで大乱闘しているところを国鉄職員の
佐藤（藤井隆）に助けられる。一方、芸能プロダクションからスカウトされた
妹キョンジャ（中村ゆり）は、チャンスの治療費を稼ぐために芸能界入りを決
意する。そんな中、チャンスの病気は次第に悪化するのだが……。
＜レビュー＞
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よりラジカルに炸裂する井筒節。差別をメッタ斬り！戦争を否定！
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日本人の高校生と在日コリアンの恋を通して、差別意識の根深さを浮き彫りに
した井筒和幸監督の傑作青春映画『パッチギ！』の続編。ただし、中心となる
キャストは一新しています。
大ヒットした前作だけに、続編をつくりたくなる気持ちは理解できるものの、
「やめておいたほうがいいんじゃないの？」と思ったのは筆者だけではないは
ず。二匹目のドジョウを狙って大失敗に終わった映画がいかに多いことか。
ですが、そんな心配は杞憂に終わりました。そもそも、井筒監督が続編をつく
ろうと思ったのは、安易にウケを狙ったわけではなく、前作で描いたテーマに
ついてまだまだ言いたいことがあり、それを別の映画で表現するぐらいなら、
「続編で正面突破してやれ！」という気持ちだったのではないでしょうか。
前作の舞台は1968年の京都。今回は1974年の東京。前作のラストで子供を持っ
たアンソンですが、妻を亡くし、長男は病気に。その治療のため、母と妹とと
もに一家で東京に出てきます。そんな彼らが差別に直面しながらも、たくまし
く生きていく姿が、笑いと涙タップリに描かれます。
とはいえ、残念ながら前作ほどストレートに感動できる映画にはなっていませ
ん。それというのも、今回はあまりにも内容が盛りだくさんだから。前作は国
籍の壁を越えた高校生の淡い恋という軸があったから、素直に物語りに入りや
すかったのです。それに対して、今回はアンソンの子供の難病物語という軸は
あるものの、同じぐらい大きな話がテンコ盛りです。
甥っ子の治療費を稼ぐために芸能界に入ったアンソンの妹キョンジャのお話。
そして、その兄妹の亡くなった父親の戦争中のお話。さらには、兄妹と親しく
する元国鉄職員の佐藤と彼を捨てた母親とのお話などなど。どれもみんな単独
で１本の映画になりそうです。
これほどの要素が盛り込まれているために、消化不良で描き足りない部分があ
って、ストレートにスクリーンに入り込むのが難しいわけです。
ただし、それでも筆者はこの映画を高く評価します。そうした欠点を覆い尽く
すだけの魅力がたくさん詰まった映画だからです。
前作でも描かれた差別に対する批判は、よりラジカルに、強烈になっています。
実在の人物の名前なども出しながら、70年代の日本でどういう在日コリアンへ
の差別が行われていたのかを明らかにしていきます。
なかでも驚くのが芸能界における差別。甥っ子の治療費を稼ぐために芸能界入
りしたキョンジャに、厳しい現実が突きつけられます。在日であることを隠し
つつ活動しなければならない苦しさと悲しさ。それを理解してくれていると思
った先輩俳優の裏切り……。
そして、さらに驚くのが、キョンジャが主役を務めた「太平洋のサムライ」な
る映画を通して、日本の戦争映画を痛烈にコキおろしているところ。反戦映画
を標榜しつつ、実際は「愛する人のために死ぬのは美しい」というメッセージ
を送る映画。
あれ？それって70年代というよりも、最近の戦争映画のことじゃありません
か？『男たちの大和／ＹＡＭＡＴＡ』だとか『俺は、君のためにこそ死ににい
く』だとか……。
まあ、何にしても、井筒監督はクライマックスのキョンジャのカミングアウト
を通して、決然と言い放ちます。「どんなことがあったって、生き抜かなくち
ゃダメなんじゃ。死んだらアカンのじゃ！！！」。
ある意味、それは戦争に対する全否定であり、究極の平和へのメッセージかも
しれません。そう。まさに井筒流のLOVE&PEACEなのです。
それを難しくマジメに語るのではなく、あくまでも笑いと涙の中で描く井筒監
督。盛りだくさんな要素もそのサービス精神のなせるワザでしょう。
ならば、多少の消化不良やあざとさなどは、許そうではありませんか。何より
も、この映画に描かれている在日差別をはじめとする多くの問題は、今も続い
ていることなのです。だからこそ、なおさらこの映画が持つ意義は大きくて重
たいのではないでしょうか。
数々の困難を乗り越えつつ、日本人にとってのタブーをエンターティメントの
中で描いた井筒監督の心意気に拍手です！
《ぽちのオススメ度》
★★★★☆
（映画自体の出来は前作には及ばない感じ。しかし、ラジカルな井筒節が痛快。
こういう映画があるうちは、日本の未来にまだ希望があるかも……。）
＜ぽち＞
〔鑑賞データ〕
2007年5月19日（土）ユナイテッド・シネマとしまえんにて。午後4時の回
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