サッド ヴァケイション


(2007年 日本)(上映時間2時間16分)
監督・脚本:青山真治
出演:浅野忠信、石田えり、宮崎あおい、板谷由夏、中村嘉葎雄、オダギリジ
ョー、光石研、斉藤陽一郎、辻香緒里、川津祐介、とよた真帆、嶋田久作、豊
原功補、山口美也子
* シネマライズほかにて全国公開
ホームページ http://www.sadvacation.jp/
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<ストーリー>
北九州で、中国からの密航者の手引きをしていた健次(浅野忠信)は、船内で
父親を亡くした少年アチュンを引き取る。アチュンや幼馴染の男の妹ユリと家
族のような共同生活を送っていた彼は、やがて運転代行業に転じ、ある運送屋
を知る。その運送屋には、スネに傷を持つ流れ者たちが集まっており、かつて
バスジャック事件の被害に遭った梢(宮崎あおい)も身を寄せていた。そこで
健次は、かつて自分を捨てた母親・千代子(石田えり)に再会するのだが……。

<レビュー>
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凄まじい母性(?)に圧倒される青山真治監督の「北九州サーガ」の集大成
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自分と父親を捨てた母親と、偶然再会した男の物語……。
とくれば、親子の葛藤と愛情の物語かと思うわけですが、実際は、そんなに単
純な映画ではありません。

主人公の健次は、中国人の密航の手引きをしていたが、追っ手から逃れるため
に運転代行の職に就く。そして、ある日、間宮運送の社長を客として乗せる。
そこで間宮の妻を見た健次はがく然とする。その女性・千代子は、かつて自分
と父を捨てた母だったのだ……。

突然の母との再会に戸惑い、怒り、苦しむ健次。それに対して、まるで何事も
なかったかのように健次を迎え入れる母・千代子。両者の対照的な態度が印象
的です。これが母というものなのか? それとも千代子という女性の持つ特質
なのか? 母子の涙の感動物語とも、激しいぶつかり合いのドラマとも違う、
不思議な展開です。

そして、母は息子に一緒に住むように勧めます。それに対して、拒否するかと
思われた息子もあっさりとそれを受け入れる。なぜなら、その裏には恐ろしい
計画が秘められていたのだ……。

そのあたりは、息子による母への復讐劇の様相を呈すのですが、そこに焦点が
絞られるわけでもありません。息子の計画自体、いったいどこまでが本当に計
画的なのかよくわからないのです。

この母子以外にも、多様な登場人物が現れ、いくつものドラマを生み出してい
ます。千代子の夫が経営する運送会社は、ワケありの流れ者を雇い入れて職と
住むところを与えている擬似家族のような場所。そこに雇われた梢と名乗る少
女には、複雑な過去があります。そして、その他のメンバーにも……。

また、主人公の健次は、中国人の密航を手助けしていた時に、父を亡くした中
国人の子供を引き取って育てています。しかも、そこには幼馴染の男の妹ユリ
もいて、こちらも擬似家族のような生活を送っています。

さらに健次と、運転代行の客となったホステスとの愛の物語も同時に描かれま
す。

このあたりを見れば、やはり「親子とは?」「家族とは?」といったあたりが
テーマとして浮上するのですが、それを脇に押しやってしまうのが千代子の圧
倒的な存在感。石田えり演じる千代子があまりにも強烈な個性で、彼女の前で
は何もかもが無意味に思えてきます。

何に対しても動じず、すべてを飲み込んでしまい、前しか見ない女。これを底
なしの母性というのでしょうか? たくましいと感じるのを超越して、恐ろし
いとさえ思ってしまうほどです。

ラストに起きるのは、衝撃的な出来事。しかし、それでさえ母の千代子は包み
込もうとします。もちろん、そこに何の葛藤もないわけではないのですが……。

実は、この映画、青山真治監督の代表作「Helpless」「EUREKA ユリイカ」に
続く"北九州サーガ"の集大成として撮られたドラマ。したがって、過去2作に
登場した人物がたくさん登場します。そのあたり、未見の人はやや戸惑うかも。

それでも、ドキュメンタリータッチの映像などを駆使して捉えられた、登場人
物の複雑な胸の内は見応えがあります。親子関係や家族についての映画という
よりは、ズバリ、「母性」あるいは「女」をテーマにした映画として、なかな
か興味深い作品でした。

《ぽちの満足度》
★★★☆☆

《ぽちのオススメ度》
★★★☆☆
(「母」を中心に描かれた人間ドラマとして見応えあり。『Helpless』『EUREK
A ユリイカ』を事前に観ておくと、さらに楽しめるかと思います。)
                            <ぽち>
〔鑑賞データ〕
2007年9月15日(土)新宿武蔵野館にて。午後1時の回。


[「さ」のページ]




サッド ヴァケイション
青山真治
石田えり
浅野忠信
宮崎あおい
板谷由夏