叫(さけび)


(2006年 日本)(上映時間1時間44分)
監督・脚本:黒沢清
出演:役所広司、小西真奈美、葉月里緒菜、伊原剛志、オダギリジョー、加瀬
亮、平山広行、奥貫薫、中村育二、野村宏伸
* シネセゾン渋谷、新宿武蔵野館ほかにて公開
ホームページ http://sakebi.jp/index.html
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<ストーリー>
殺人事件の捜査にあたる刑事の吉岡(役所広司)は、"犯人は自分ではないか"
との疑念を持ち始める。被害者の周辺には自分の痕跡が残るが、自らの記憶は
曖昧だった。それを確かめるように殺人現場に舞い戻った彼は、そこで不気味
な女の叫び声を耳にするのだが……。

<レビュー>
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過去と現在の距離感を描ききった不思議な恐怖映画
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『CURE キュア』『ドッペルゲンガー』などの鬼才・黒沢清監督のミステ
リー・ホラー。主役は黒沢作品ではおなじみの役所広司。その他のキャストも
小西真奈美、葉月里緒菜、伊原剛志、オダギリジョー、加瀬亮など超豪華版。

これだけ豪華なキャストだと、徹底したエンターティメントに走りたくなるも
のですが、そこはさすがに黒沢監督。明確なテーマ性を持った映画になってい
ます。

話の中心は、殺人事件の捜査をするうちに、自分が犯人ではないかと疑い始め
た刑事の苦悩。そして、彼が目にするのが赤いドレスの女の幽霊。実はその幽
霊を見たのは彼だけではなく、幽霊を見た者たちはいずれも、「全部なしにし
たい」と強く思う。そして、恐ろしい行動に出る……。

幽霊が登場するもののストレートな怖さはありません。全体は謎解きのミステ
リー仕立ての展開。その中で、役所広司演じる主人公の刑事が人殺しではない
かと苦悩し、混乱し、それでもそこに秘められているらしい「何か」を必死で
探り出そうとする姿が描かれます。彼は本当に人殺しなのか? そして、幽霊
の正体は?

というように、普通のミステリー・サスペンスとしても楽しめるのですが、そ
こに「過去」というキーワードを当てはめると、話により深みが出て、考えさ
せられてしまいます。

ネタバレしない範囲で言えば、一連の殺人事件にはある共通項があって、それ
は15年前の出来事と大きく関わってくるのです。舞台となる東京の湾岸。海を
埋め立てて過去を捨て去り、未来だけを見つめてきたはずの場所。しかし、そ
こにはどうしても消し去れない過去が残っていたのです……。

女の幽霊が出てくる理由は、それほどたいしたことではないようにも思えます。
「そんなことで幽霊にとりつかれちゃ、たまらないよなぁ〜」という感じもし
ます。

しかし、よく考えたら、それは「死者=過去の思い」と「生者=現在の思い」
との距離感そのものなのでした。現在を生きる私たちは、過去を切り捨て、置
き去りにして今を生きています。でも、私たちにとって「なんだそんなこと」
あるいは「もう忘れちゃった」ことの中に、本当は捨てたり、忘れたりしては
いけなかった過去があるかもしれないのです。

ホラーやミステリーという枠の中で、過去と現在との距離感を描ききったこの
映画。従来の黒沢作品にある「何を言いたいんだ?」てな難解さもそれほどな
く、エンターティメント性とテーマ性のバランスがとてもよい感じがしました。

そして、相変わらずスゴイのがその映像美です。赤を中心にした豊かな色彩感
覚、光と影の使い方、細部まで作りこまれたセットなどなど。役所広司が住ん
でる団地とか、かつての問題の場所とか、ホントによくできているんですよね
ぇ〜。

最後には、アッと驚く事実が明らかになります。それまで、小西真奈美演じる
主人公の恋人の存在が曖昧で、とても気になっていたのですが(おまけに役所
広司の恋人にしては若すぎるし)、それにはとてつもない秘密があったのです。
どんな秘密かはご自分の目でどうぞ。

ホラー映画というよりもミステリー色の濃い映画。ストレートな怖さはありま
せんが、より深い怖さが味わえると思います。個人的には、ここ数作の黒沢作
品の中で一番好きかも……。

みなさんにも、本当は忘れてはいけない過去があるのでは???

《ぽちのオススメ度》
★★★☆☆(+1/2★)
(ストレートなコワさには期待せずに、白紙で観たほうがおもしろいかもしれ
ません。黒沢監督らしさも十分に出ています。)
                            <ぽち>
〔鑑賞データ〕
2007年3月3日(土)新宿武蔵野館にて。午前11時35分の回


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