|
サイドカーに犬
（2007年 日本）（上映時間１時間34分）
監督：根岸吉太郎
出演：竹内結子、古田新太、松本花奈、谷山毅、ミムラ、鈴木砂羽、トミーズ雅、
山本浩司、寺田農、温水洋一、樹木希林、椎名桔平
＊ シネスイッチ銀座、アミューズＣＱＮほかにて全国公開
ホームページ http://sidecar-movie.jp/
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
＜ストーリー＞
不動産会社に勤める薫は、弟の結婚披露宴に離婚した両親も出席すると聞き、2
0年前の出来事を思い出す。小４の夏休み、母が家出し、ヨーコさん（竹内結
子）という若い女が突然やって来た。神経質な母とは対照的に大ざっぱで気が
強いヨーコさんは、薫に対して対等に接してくれる。彼女との生活は薫にとっ
て驚きの連続だったが……。
＜レビュー＞
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
少女を変えた、不思議な女性とのひと夏の交流
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
2006年の『雪に願うこと』で数々の映画賞を獲得したベテラン根岸吉太郎監督
が、長嶋有の同名小説を映画化した作品。風変わりな父の愛人との出会いによ
って、内気だった少女が変わっていく様子を描いた、さわやかで、ノスタルジ
ックな物語です。
スタートは、すでに30歳になった主人公の薫が登場。弟の結婚絡みで、離婚し
た両親の話が出て、それをきっかけに20年前の夏の出来事を思い出します。
時代は1980年代初頭。薫の母が父親に愛想を尽かして家出します。それに代わ
って突然家にご飯を作りにやってきたのが、ヨーコという父の愛人。愛人など
というと、いかにもドロドロで湿度の高い物語のように思えますが、実際は正
反対。
何しろ、そのヨーコさんは、ドロップハンドルの自転車に颯爽と乗り、自由奔
放で、さっぱりした男みたいな性格の女性。内気な少女・薫にとって実に魅力
的な存在で、彼女に惹かれていくのも納得できます。
自転車の乗り方を教わったり、近所にあるらしい山口百恵の家を見物に行った
り……。そうした交流を通して、薫がヨーコさんの影響を受けて少しずつ変わ
っていく姿が、ほほえましく描かれています。
ヨーコさんと父との関係も、初めのうちは、それほど明確に描かれておらず、
「ひょっとして、ただの知り合い？」なんて思ったりもしますが、そこはやっ
ぱり愛人なわけで、やがてヨーコさんの悩みや苦しみが明らかになってきます。
物を食べているうちに少しずつ泣き出すシーン、「嫌いな人を好きになるのは
簡単だけれど、好きな人を嫌いになるのは難しい」とツラそうに言うシーンな
ど、彼女の胸のうちを的確に描写したシーンが印象的です。明るくキラキラし
たふだんの姿とのコントラストによって、余計に切なくなってくるのです。
そんなツラい関係が、別れへとつながっていきます。後半では父からの手切れ
金代わりの当り馬券を換金して、ヨーコさんと薫は伊豆へ旅をします。その後
に待っていたのは、衝撃的で、あっけない幕切れ。しかし、それでも、その夏
の出来事が薫にとって、人生を変える大きな体験だったことは確かです。
ヨーコさん役は竹内結子。これまでは、『黄泉がえり』『いま、会いにゆきま
す』など、透明感のある役柄が多かったけれど（というか幽霊だったし）、そ
れとは正反対の今回の役ですが、意外にも適役でした。彼女の演技力に加え、
根岸監督の演出の力も大きかったのでしょう。
薫とヨーコさんとのほほえましい交流、そしてヨーコさんの悲しい愛のドラマ
がきちんと描かれていて、観終わってさわやかな余韻が残ります。初夏にふさ
わしい映画かも……。
ただし、タイトルにある「サイドカーに犬」というユニークな光景が、あまり
効果的に使われていない気もしました。
それに、１時間30分程度の長さのせいか、ヨーコさんが背負った背景なども描
き足りないところがあったし、古田新太演じる父親やその周辺の人物について
は、なおさらよくわからないところが目立ちましたね。
まあ、それもこれも根岸監督の作品だからこそ気になるわけで、普通に観れば
十分に楽しめるとは思いますが……。
それにしても、麦チョコをカレー皿に盛る女の人は初めて見たぞ！
《ぽちの満足度》
★★★☆☆
《ぽちのオススメ度》
★★★☆☆
（さわやかで、ちょっぴりほろ苦い映画。根岸監督らしい繊細な感情表現が見
ものです。）
＜ぽち＞
〔鑑賞データ〕
2007年6月24日（日）シネスイッチ銀座にて。午後２時40分の回。
[「さ」のページ] |
|
