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シングルマン（A SINGLE MAN）
（2009年 アメリカ）（上映時間1時間41分）
監督・脚本・製作：トム・フォード
出演：コリン・ファース、ジュリアン・ムーア、ニコラス・ホルト、マシ
ュー・グード、ジョン・コルタジャレナ
＊新宿バルト9ほかにて公開
ホームページ http://singleman.gaga.ne.jp/
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＜ストーリー＞
1962年のロサンゼルス。イギリス人の大学教授ジョージ（コリン・ファース）
は、16年間共に暮らした同性のパートナー、ジム（マシュー・グード）を交通
事故でなくし、８ヶ月もの間悲嘆に暮れていた。そして、ついに彼は自ら人生
に終止符を打とうとする。身の回りを整理し、大学で自らの信条を熱く語り、
かつての恋人で今は親友の女性チャーリー（ジュリアン・ムーア）と思い出を
語り合うジョージ。そんな彼の前に、教え子のケニー（ニコラス・ホルト）が
現われるのだが……。
＜レビュー＞
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デザイナーのトム・フォードの美意識に貫かれた映像
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グッチやイヴ・サンローランなどで活躍してきたファッション界を代表するデ
ザイナー、トム・フォードが、監督デビューを飾った映画。原作は1964年に発
表されたクリストファー・イシャーウッドの同名小説。
長年のパートナーを失ったゲイの大学教授が、8ヶ月にわたる悲嘆の末に、つい
に自らの手で人生を終わらせようと決意した一日を描きます。
素晴らしいのは映像です。徹底した美意識に貫かれたこだわりの映像。オープ
ニングからラストまで、すべてがアート作品のようなシーンです。細部まで計
算し尽くされたスタイリッシュな世界、登場人物の目や口のアップなどの耽美
的なカット、主人公の心情を投影したような微妙な色彩の変化など、芸術家と
してのトム・フォードの才能が余すところなく発揮されています。
しかし、その反面、個人的には展開されるドラマにあまり共感できませんでし
た。愛する人を失った男の物語だけに、その喪失感、心の傷、苦悩が観客の心
に響くかどうかがポイント。それが筆者の心にはあまり響かず、別世界の出来
事のように感じられました。美しすぎる映像が、ドラマからリアルさを消し去
ったせいでしょうか。
そんな中でも、主人公と元恋人の女性との最後の晩餐のシーンなどは、それな
りにリアルに心に響いてきました。お互いの孤独を慰めあいながらも、どうし
てもそれ以上には進めない２人の揺れ動く心情が何ともやるせなく感じられま
した。
また、ドラマの舞台となるのが1960年代ということで、現在のようには同性愛
をなかなか公言できない社会状況に加え、キューバ危機という暗いニュースと
主人公の心情をリンクさせるなど、巧みな工夫もされています。
ドラマは後半に急展開します。主人公の前に現れた美青年の教え子が、新たな
人生の輝きを見せてくれます。しかし、その先にフォード監督は意外な結末を
用意します。まあ、この映画の作風から考えて、ああいうオチになるのは当然
といえば当然ですが、強引にまとめた感じもしないではありません。
映像とともに見応えがあるのが役者たちの繊細な演技。ベネチア国際映画祭で
主演男優賞を獲得したコリン・ファースに加え、元恋人役のジュリアン・ムー
アの演技も絶品。自らの孤独を癒す相手がゲイの男だという女性の感情の起伏
を、ごく自然に表現していました。
小説の映画化とはいえ、この映画にはフォード監督自身の体験も投影されてい
る模様。そういう点も含めて、彼が自分のやりたかったことをやりきった映画
といえるのではないでしょうか。
ドラマに共感できるかどうかは人によって違うと思いますが、あまりにも美し
すぎる映像だけでも一見の価値ありだと思います。
≪ぽちの満足度≫
★★★☆☆
≪ぽちのオススメ度≫
★★★☆☆
（映像の美しさは特筆もの。一流のファッション・デザイナーは芸術家なのだ
と実感させられる映画です。）
（田中ひろあき（ぽち））
2010年10月2日（土）新宿バルト9にて。午後1時40分の回
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