扉をたたく人(THE VISITOR)


(2007年 アメリカ)(上映時間1時間44分)
監督・脚本:トム・マッカーシー
出演:リチャード・ジェンキンス、ヒアム・アッバス、ハーズ・スレイマン、
ダナイ・グリラ、マリアン・セルデス
*恵比寿ガーデンシネマほかにて全国公開
ホームページ http://www.tobira-movie.jp/
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

<ストーリー>
愛妻に先立たれ、心を閉ざして孤独に暮らすコネティカット州の大学教授ウォ
ルター(リチャード・ジェンキンス)は、学会出席のため久々にニューヨーク
にある別宅のアパートを訪れる。だが、そこには見知らぬ若いカップル、シリ
ア出身の青年タレク(ハーズ・スレイマン)とセネガル出身の恋人ゼイナブ
(ダナイ・グリラ)がいた。騙されて住み、行くあてのない彼らをしばらく滞
在させるウォルター。タレクは「ジャンべ」というアフリカン・ドラムをウォ
ルターに教え、2人は次第に心を通わせていくのだが……。

<レビュー>
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
アメリカの社会問題を背景に描く孤独な男の再生の物語
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

名脇役として知られるベテラン俳優のリチャード・ジェンキンスが、アカデ
ミー賞主演男優賞にノミネートされた作品。孤独な大学教授と移民の青年との
心の交流を描いたヒューマン・ドラマです。

妻を亡くして仕事にも身が入らず、孤独な暮らしの大学教授ウォルター。妻が
好きだったピアノを習おうとするがうまくいかない。そんなある日、仕事でニ
ューヨークへ行き、別宅のアパートを訪れると見知らぬ移民カップル、タレク
とゼイナブがいた。行くあてのない彼らに滞在を許すウォルター。タレクはア
フリカン・ドラム(ジャンベ)の演奏者で、ウォルターに演奏を指導する……。

最初は孤独で周囲に対して心を閉ざしていたウォルターが、タレクとの交流に
よって心を開いていくようすが、繊細に描かれています。俳優でもあるトム・
マッカーシー監督の抑制的な演出と、リチャード・ジェンキンスの渋い演技に
よって、観客の心の奥底にジワジワとしみてきます。

ジャンベという楽器が効果的です。心を浮き立たせるような独特のリズムが、
ウォルターの心の変化を、クッキリと描き出します。ためらいながらも、不器
用に交流を求めていくその姿が印象的です。

とはいえ、それだけだったら、よくある感動のヒューマン・ドラマ。やがて、
タレクはふとしたことから警察に逮捕され、施設に収容されてしまいます。

この一件を通じて監督が訴えているのは、9.11以降のアメリカの不寛容で非情
な移民政策に対する疑問。本来なら、移民の国であるアメリカが移民を排斥す
る矛盾を浮き立たせています。

ウォルターは、必死になってタレクを救おうと努力します。そこには、人間と
しての良心が感じられます。おそらく、タレクからジャンベを習う前のウォル
ターだったら、そんなことはしなかったでしょう。

そして、その過程では、タレクの身を案じてニューヨークにやってきた彼の母
親モーナとの出会いも描かれます。考えようによっては都合のいいロマンスと
もいえますが、それを感じさせない自然な演出&演技です。

しかし、強大な権力の前では、個人の力には限界があります。ウォルターたち
の努力にもかかわらず……。

ウォルターが地下鉄のホームで、ひたすらジャンベをたたき続けるラストシー
ンが、切なくてたまりません。自分は再生できたけれど、それをもたらしてく
れたタレクはどうなるのか。張り裂けそうな思いでジャンベをたたくウォル
ターの姿が、いつまでも心に残ります。

孤独な男の再生の物語であると同時に、アメリカの移民問題をクローズアップ
したドラマ。間違いなく秀作です。

《ぽちの満足度》
★★★★☆

《ぽちのオススメ度》
★★★☆☆(+1/2)
(地味ですが心にしみる感動作。社会の矛盾に対する様々な思いも湧いてきま
す。)
                             (田中ひろあき(ぽち))

〔鑑賞データ〕
2009年7月10日(金)恵比寿ガーデンシネマにて。午後1時30分の回


[「と」のページ]