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幽閉者 テロリスト
（2006年 日本）（上映時間１時間53分）
監督・脚本：足立正生
出演：田口トモロヲ、ＰＡＮＴＡ、大久保鷹、梶原譲二、ARATA、本多章一、山
本浩司、柄本時生、比嘉愛未、仲野茂、荻野目慶子
＊ ユーロスペースにて公開
ホームページ http://www.prisoner-m.com/
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＜ストーリー＞
Ｍ（田口トモロヲ）は、仲間とともに空港襲撃作戦を実行するものの、自決用
の手榴弾が不発でただ１人生きて捕らえられる。保安隊員たちは彼を拷問にか
け、次の作戦計画を聞き出そうとする。独房で憔悴していくＭは、幻覚を見る
ようになり……。
＜レビュー＞
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囚われのテロリストを描く。田口トモロヲが渾身の演技！
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田口トモロヲといえば、一般にはＮＨＫテレビ「プロジェクトＸ」のナレーシ
ョンで知名度が上がりましたが、もとはパンクバンド「ばちかぶり」のボーカ
ル。その後俳優活動を始め、今では個性的な演技で日本映画には欠かせない存
在となっています。そんな彼が主演したのがこの映画。それも実にスサマジイ
人物を演じているのです。
主人公はテロリストＭ。一応、架空の人物となっていますが、モデルは明らか
に日本赤軍のメンバーで、1972年のテルアビブ空港事件（リッダ空港事件）の
実行犯の１人、岡本公三です。
仲間とともに空港襲撃作戦を決行し、その後自爆するつもりが死ねずに捕らえ
られ、独房で手足を鎖につながれ、拷問を受け、混乱と狂気に襲われながらも
自問を繰り返すＭの姿がリアルに描かれます。
とにかく壮絶すぎる演技です。こういうのを一世一代の熱演というのかも。１
人のテロリストが憔悴し、精神的、肉体的に追い詰められ、狂気と正気、空想
と現実の狭間でもがく様子を、圧倒的な迫力で演じ切っています。
以前からアブナイ役の多い田口トモロヲですが、もはやそういう次元ではあり
ません。そのリアル感はドキュメンタリーをもしのぐほどです。観ているうち
に、なんだか自分も幽閉されて、拷問を受けているような気になるんですヨ。
身体が締め付けられるような、痛いような感じがして、座席で何度も座り直し
てしまいました。主人公が混乱していくところも、コワイぐらいの迫力です。
主人公Ｍの過酷な幽閉生活と同時に描かれるのは、彼が見る幻覚や幼少の記憶
など。歴史上の革命家、家族たち、好きだった女の子……。彼にとっての原点
は何だったのか。アイデンティティーはどこにあるのかをたどっていきます。
それに対する明確な答えはありません。エンタメ映画のようなわかりやすい展
開ではありません。しかし、提示された様々な素材を通して、人間という存在
について、いろいろと考えさせられるのは確かです。いったい自分が、ここで、
こうしているのはなぜなのか？何のために、ここにいるのか？ そして、自分
を包む社会という存在についても考えさせられます。
監督の足立正生は、60年代後半に若松孝二監督作品で脚本を手がけたほか、
『女学生ゲリラ』などの監督作品でも注目された監督。その後、『赤軍派−Ｐ
ＦＬＰ 世界戦争宣言』を監督したのをきっかけに、パレスチナに渡り日本赤
軍に参加、97年にレバノンで逮捕された後、2000年に強制送還された伝説の人
物。今回はなんと35年ぶりの監督作。
主人公の過去の記憶をたどるシーンあたりでは、ちょっと70年前後のアングラ
映画や演劇の雰囲気を感じてしまいました。でも、けっして古くさい感じでは
ないんです。結局のところ当時も今も、我々を取り巻く基本的な構図はあまり
変わっていなくて、社会の管理がより巧妙になっただけなのかも……。な〜ん
てことも思ったりしました。いや、もしかしたら世の中もっと悪くなっている
のかもネ。
田口トモロヲ以外の配役もユニークで、ロックバンド「頭脳警察の」ＰＡＮＴ
Ａをはじめ大久保鷹、梶原譲二、ARATA、山本浩司、柄本時生、比嘉愛未、仲野
茂など個性派ばかり。あまりに存在感が強すぎて、たまに演技が噛み合ってい
なかったりするのはご愛嬌。そんな中、荻野目慶子のおおらかな演技が独特の
空気をつくり出しています。
伝説の監督の映画らしく、赤瀬川原平、流山児祥、若松孝二、松田政男、平岡
正明、渚ようこ、四方田犬彦、瀬々敬久など各界のユニークな人物たちが、チ
ラッと登場するのも楽しいところ。
大友良英によるノイズ系の音楽も、この映画にはピッタリです。ラストに流れ
るエンディング・テーマが、これまたスサマジイ迫力。
１人のテロリストを描いた映画ですが、それだけでなく人間や社会について、
様々なことを考えさせてくれます。主人公のように幽閉されていなくても、い
ろんなものにガンジガラメになっているボクのような人間にとっては、かなり
痛い映画でした。エンタメ映画とは対極の映画ですが、田口トモロヲの熱演だ
けでも一見の価値アリ！
だいたいこのご時世に、“テロリスト”という文字が入った映画を公開できる
なんて、日本映画界もまだまだ捨てたもんじゃないゾ。
《ぽちのオススメ度》
★★★☆☆
（田口トモロヲの鬼気迫る演技が見もの。最近ではあまりないタイプの映画で
す。物は試しでいかが？）
＜ぽち＞
〔鑑賞データ〕
2007年2月4日（日）ユーロスペースにて。午後4時15分の回
[「ゆ」のページ] |
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