雪に願うこと


(2005年 日本)(上映時間1時間52分)
監督:根岸吉太郎
出演:伊勢谷友介、佐藤浩市、小泉今日子、吹石一恵、香川照之、小澤征悦、
椎名桔平、津川雅彦、でんでん、山本浩司、岡本竜汰、出口哲也、草笛光子、
山崎努
ホームページ http://www.yukinega.com/
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<ストーリー>
東京で成功したものの、経営していた会社が倒産し、妻や友人たちにも去られ
てしまった矢崎学(伊勢谷友介)。ばんえい競馬の調教師をしている兄の威夫
(佐藤浩市)を頼って、故郷の北海道帯広へと戻ってきた彼は、厩舎で見習い
として働き始める。そこで、お払い箱になる寸前の馬、ウンリュウと出会うの
だが……。

<レビュー>
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根岸吉太郎監督が、ばんえい競馬を舞台に描いた、心に染みる再生の物語
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いい映画だなぁ〜。
観終わって、そうとしかいいようのない心に染みる作品。『遠雷』などで知ら
れるベテラン根岸吉太郎監督にとっても、代表作といえる1本になることでし
ょう。2005年の東京国際映画祭で史上初の4冠を獲得を獲得したのも納得でき
ます。

鳴海章原作の『輓馬』の映画化。ばんえい競馬(何百キロものソリをひいて障
害を越える馬のレース)を舞台に、東京で挫折した若者が、同じく挫折した馬
との出会いを通して、再び生きる気力を取り戻していく物語。

こういう話の展開そのものは、別に目新しいものではありません。劇的なシー
ンもまったくなし。それでも、ジワジワと心に感動が染みてきて目が離せませ
ん。「感動」といえば涙の押し付けばかりが目立つ昨今ですが、それとは対極
の淡々とした、さりげない描写。それが、よけいに余韻に満ちた感動を残して
くれるのです。

感心するのが、東京で挫折した主役の青年はもちろん、調教師を務めるその兄、
兄の世話をする女性、かつての名騎手の娘である女性騎手、厩務員たちなど、
すべての登場人物の人生がきちんと描かれていること。2時間弱の映画で、こ
れだけたくさんの人物を描き分けるのは困難なこと。たいていどこかに不足が
出てくるものですが、それが全然ありません。

しかも彼らの心理描写が実に見事。セリフも的確でよく練られているのですが、
セリフ以外の部分で心の中を描いていくのです。主人公の屈折した思い、兄の
持っていきようのない怒り、兄を慕う女性のほのかな思いなどなど……。

雪深い北海道の大地も、再生の舞台としてはとても効果的です。特に朝の美し
い光景が印象的。その中で、荒い息を吐きながら調教を受ける馬、そしてスタ
ッフたち。まるで絵画のような美しい風景です。

唯一のドラマチックなシーンといえば、クライマックスのレースシーンでしょ
うか。主人公が出会った馬が、運命を賭けてレースに出ます。しかし、そこも
抑制的に描かれます。なにせその馬に思いを託すはずの主人公が、その場にい
ないのですから。

一見、あっけなく思えるラストも、計算し尽くされた終わり方で余韻がタップ
リ。

主役の伊勢谷友介は、どうにも頼りなさそうなのですが、それが主人公のキャ
ラクターには合っていました。その兄役の佐藤浩市は相変わらずの厚みのある
演技。彼を慕う過去のある女性役の小泉今日子、心に傷を持つ女性騎手役の吹
石一恵も印象的。そのほか、小澤征悦、椎名桔平、でんでん、山本浩司、山崎
努など、いずれのキャストも適役です。

完成度の高い感動のドラマ。押し付けでない、ジワジワくる感動が味わえます。
いや、ホントに。最初から最後まで、まったくケチのつけようがないんですよ。
あまりに素晴らしくて、どこもけなすところがないのが、逆に唯一の欠点に思
えてしまうほどです。

ちなみに、ばんえい競馬は、この映画の完成後に廃止の危機を迎えましたが、
ソフトバンク系の会社の支援で帯広のみで続行中(2006年3月現在)。

《ぽちのオススメ度》
★★★★☆
(ジミながら実によく出来た人間ドラマ。ジンワリくる感動が味わえます)
                            <ぽち>
〔鑑賞データ〕
2007年3月19日(月)DVDにて


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