ＣＵＴ

ＣＵＴ

（2011年　日本）（上映時間2時間）
監督：アミール・ナデリ
出演：西島秀俊、常盤貴子、菅田俊、でんでん、鈴木卓爾、笹野高史
＊シネマート新宿ほかにて公開
ホームページ　http://bitters.co.jp/cut/
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＜ストーリー＞
売れない映画監督の秀二（西島秀俊）は、細々と名画の自主上映会を開いてい
た。そんな中、兄が借金トラブルで死んでしまう。兄がヤクザから金を借りて
いたことを知った秀二は、借金を返すためにヤクザ相手に殴られ屋をすること
になるのだが……。

＜レビュー＞
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監督の映画への強烈な愛が伝わるユニークな作品
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ニューヨーク在住のイラン人映画監督アミール・ナデリが、日本を舞台に日本
人俳優を起用して撮った作品。

兄から金を借りて映画を撮っていた主人公の秀二。だが、どの作品も映画館に
かけることができない。そんなある日、兄が借金トラブルで死んだという知ら
せが入る。兄が自分のために借金をしていたことを知った彼は、借金返済のた
めにヤクザ相手の殴られ屋になる……。

主人公の秀二はアミール・ナデリ監督自身が投影されたと思しき人物。商業主
義に毒された現在の映画界をのろい、細々と名画の自主上映会を開いています。
彼の痛烈なアジテーションには、なるほど的を射た点もありますが、現状を全
否定する教条主義的な姿勢には違和感を感じました。

その代わりヒシヒシと伝わってくるのが、主人公＝ナデリ監督の映画に対する
狂おしいほどの愛情。

そのハイライトがクライマックスで秀二が起死回生のために、100連発のパンチ
を浴びるところ。一発ごとに、様々な名画の題名が示されます（なぜか103本だ
けど）。英語のタイトルなのでわかりにくいものもありましたが、確かに名画
と呼ばれる作品がテンコ盛り。そのセレクションからナデリ監督の趣味もうか
がい知れます。

そこには小津安二郎や新藤兼人など日本の監督の作品もリストアップされてい
ます。実際にかつての名画のフィルムも何箇所かで登場します。

この映画に登場する名画の何本かを観るだけでも、観客の映画に対する見方が
変わるかもしれません。

ただし、ドラマ的に底が浅いのがもったいないところ。秀二の映画製作は兄か
らの借金を元手にしたもの。その兄はヤクザから借金していて、そのトラブル
が元で死んでしまいます。秀二はそんな兄の必死の呼びかけを無視していたこ
ともあり、借金返済のためと同時に、兄に対する贖罪の意識から殴られ屋にな
ります。自分が殴られる場所を、兄の死んだ空間に限定するあたりにそれが強
く表れています。

しかし、そのあたりの描き方がイマイチ物足りません。秀二をはじめ登場人物
の心情もリアルには伝わってきません（主演の西島秀俊の鬼気迫る演技は特筆
ものですが）。映画への愛と殴られ屋とを結ぶものが、もう少しわかりやすく
描かれていたら、ドラマに深みが出たような気がするのですが。

舞台となるヤクザの事務所兼バーのようなところが、現実にありそうもない場
所なのも気になりました。よけいにリアリティをそいでいるように思えました。

というわけでドラマ的には物足りないものの、映画愛にあふれた作品なのは間
違いなし。そこに注目すれば、観る価値のある映画だと思います。特に熱心な
映画ファンの方にとっては。

≪ぽちの満足度≫
★★★☆☆

≪ぽちのオススメ度≫
★★★☆☆
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（田中ひろあき（ぽち））

〔鑑賞データ〕
2011年12月22日（木）シネマート新宿にて。午後1時50分の回

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