キラー・インサイド・ミー(THE KILLER INSIDE ME)


(2010年 アメリカ・スウェーデン・イギリス・カナダ)(上映時間1時間49分)
監督:マイケル・ウィンターボトム
出演:ケイシー・アフレック、ケイト・ハドソン、ジェシカ・アルバ、ネッ
ド・ビーティ、 イライアス・コティーズ、トム・バウアー、サイモン・ベイ
カー、ビル・プルマン、ブレント・ブリスコー、リーアム・エイケン、ジェ
イ・R・ファーガソン、マシュー・マー
*ヒューマントラストシネマ渋谷ほかにて公開
ホームページ http://www.kim-movie.com/
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

<ストーリー>
1950年代のテキサスの田舎町。保安官助手のルー・フォード(ケイシー・アフ
レック)は紳士的な好青年として人々に親しまれ、幼なじみの女性教師エイ
ミー・スタントン(ケイト・ハドソン)と交際していた。ある日、住民からの
苦情を受けて、ルーは売春婦ジョイス(ジェシカ・アルバ)のもとを訪ねる。
彼を客と勘違いしたジョイスは優しくもてなすが、保安官とわかると態度を一
変させ平手打ちを喰らわす。その瞬間、抑えがたい衝動から、ルーはジョイス
をベッドに押さえつけ激しく殴打する。それ以来、2人は情事を重ねるのだが
……。

<レビュー>
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
秘めた暴力性に目覚めた男の破滅への道程
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

ノワール小説の名手ジム・トンプソンの『おれの中の殺し屋』を映画化した犯
罪ドラマ。監督のマイケル・ウィンターボトムは、『ひかりのまち』『イン・
ディス・ワールド』『マイティ・ハート/愛と絆』など、一作ごとに内容もタ
ッチも違う映画を撮ってきた監督。今回もまた過去の作品とは一線を画す映画
です。

舞台は1950年代のテキサスの田舎町。純朴だった保安官助手の青年が、ある売
春婦と出会ったことをきっかけに、眠っていた内なる暴力性に目覚めて、恐ろ
しい犯罪に手を染めていく物語。

主人公ルーの暴力性が赤裸々に描かれています。衝動的な暴力からSMチック
なセックスに突入し、どんどん狂っていくルー。その背景にある幼い頃の記憶
なども盛り込まれ、ジワジワと彼の狂気をあぶりだしていきます。

ルーの静かな独白によってドラマが進行する構成、そして当時の時代や土地柄
を象徴するノスタルジックな雰囲気が、彼の暴力性をよりクッキリと浮かび上
がらせます。「シェイム・オン・ミー(恥を知れ)」と歌う古めかしい音楽も
効果的です。

当初は完全犯罪のつもりだったルーの犯行ですが、その目論見は少しずつ外れ
出します。それを隠蔽しようとして、あるいは一度目覚めてしまった暴力性ゆ
え、新たな犯罪を重ねるルー。そして、次第に追い詰められていきます。

暴力描写が多いけれど、不思議に目をそらせることがいないのは、スタイリッ
シュなドラマの語り口や個性的な人物配置のおかげ。街を牛耳る建設会社のボ
ス、切れ者の郡の検察官をはじめ、多彩な人物が登場します。

クライマックスは驚きの展開。意外な人物の出現から破滅へ。そこをスロー
モーションでスタイリッシュに描いたところは、いかにもウィンターボトム監
督らしい演出といえるかもしれません。ラストにかかるのも「シェイム・オ
ン・ミー」。

ルー役のケーシー・アフレックの演技が絶品。静謐さと秘めた暴力性との両立
が素晴らしい!

残念なのは、恋人のエイミーや売春婦のジョイスの人物像り掘り下げ方が不十
分な点でしょうか。前半でルーが暴力性に目覚めるあたりも、もう少しじっく
り描いてもよかった気がします。

≪ぽちの満足度≫
★★★☆☆

≪ぽちのオススメ度≫
★★★☆☆
                             (田中ひろあき(ぽち))

〔鑑賞データ〕
2011年5月1日(日)ヒューマントラストシネマ渋谷にて。午後1時45分の回



[「き」のページ]