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八日目の蝉
（2011年 日本）（上映時間2時間27分）
監督：成島出
出演：井上真央、永作博美、小池栄子、森口瑤子、田中哲司、市川実和子、平
田満、渡邉このみ、劇団ひとり、余貴美子、田中泯、風吹ジュン
＊丸の内ピカデリーほかにて全国公開
ホームページ http://www.youkame.com/
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＜ストーリー＞
不倫相手の生まれて間もない子供を誘拐した野々宮希和子（永作博美）。逃亡
しながら、その子に愛情を注ぎ必死で育てる。奇妙な団体の施設「エンジェル
ホーム」に身を寄せた後、小豆島に渡って平穏な日々を送る。だが、４年後、
希和子は逮捕されてしまう。４歳になり初めて実の両親の元に戻った恵理菜
（井上真央）は、心を閉ざしたまま成長する。やがて大学生になった恵理菜は
妊娠するが、その相手もまた家庭を持つ男だった……。
＜レビュー＞
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誘拐犯の母と記憶を封印した娘。狂おしいほどの母性に圧倒される
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ＮＨＫでテレビドラマ化もされた直木賞作家・角田光代の同名小説の映画化。
中絶して子供を産めない体になった希和子という女性が、衝動的に不倫相手の
赤ん坊を誘拐。逃亡しながら実子として育てるものの４年後に逮捕され、子供
は実の両親宅に。しかし、心を閉ざしたまま成長し、やがて自分も不倫相手の
子供を妊娠する……。
オープニングはいきなり誘拐事件の裁判シーン。それも被害者である恵理菜の
母親と、加害者である希和子の証言を顔のアップだけで見せる印象的な導入部
です。
その後に描かれるのは、21歳になった大学生の恵理菜。心にトラウマを抱える
彼女は、自分が好きなのかどうかもわからない男と不倫を続け、妊娠してしま
います。
それと並行して交互に描かれるのが、かつての希和子の逃亡生活。最初は「エ
ンゼルホーム」という怪しげな団体の施設での奇妙な共同生活。続いて小豆島
での自然と人々の優しさに包まれた暮らし。苦労しながら誘拐した子供を必死
で育てます。
恵理菜のドラマは比較的オーソドックスな演出。一方、希和子のドラマはドキ
ュメンタリータッチ。描き方に違いはあるものの、どちらもアップを多用して、
セリフ以外でそれぞれの心理をリアルに表現するところは共通。『孤高のメ
ス』の成島出監督の演出が冴えています。
映画の芯になるのは、心を閉ざし、記憶を封印した恵理菜の再生。そこで重要
な役割を果たすのがジャーナリストの安藤千草。最初に登場した時から、何だ
か不思議な雰囲気を漂わせているのですが、それもそのはず彼女も心に大きな
傷を抱えています。
そんな彼女の誘いで、恵理菜はかつて育った場所を訪れます。最初はエンゼル
ホームへ。そして、小豆島へ。そうするうちに、血のつながらない母・希和子
との記憶を取り戻していき、少しずつ心を溶かしていきます。
小豆島の美しい風景やお遍路さん、たいまつを使った祭りなども巧みに織り込
まれ、恵理菜の心に風を吹かせます。
旅の途中で、千草が自らの心情を吐露して、恵理菜のお腹に耳を当てるシーン
も心に染みます。
ラストは写真館での家族写真を使い、恵理菜の感情を最高潮に導き、ウソ偽り
のない心情を吐き出させます。自分を誘拐した希和子へ、そして実の母親へ。
壮絶であると同時に、再生を予感させるその表情が観客の心を突き刺します。
彼女が「八日目の蝉」をついに肯定した瞬間でもあります。
観終わって感じるのは、狂おしいほどの母性！ 観る前には正直、男である自
分には理解しがたいのではないかと危惧したのですが、底知れぬ母性に、理屈
を超えて納得させられてしまいました。
母性を体現した永作博美、奥行きのある演技を見せた井上真央（背中がキレ
イ！）、狂気を感じさせた実母役の森口瑤子、相変わらず存在感のある小池栄
子など、女優陣の名演も忘れてはいけません（余貴美子の怪演も見もの）。今
年の日本映画のベストテンには入りそうな力作です。
≪ぽちの満足度≫
★★★★☆
≪ぽちのオススメ度≫
★★★☆☆（＋1／2★）
（田中ひろあき（ぽち））
〔鑑賞データ〕
2011年4月30日（土）池袋東急にて。午後12時50分の回
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