|
ムサン日記〜白い犬（THE JOURNALS OF MUSAN）
（2010年 韓国）（上映時間2時間7分）
製作・監督・脚本：パク・ジョンボム
出演：パク・ジョンボム、ジン・ヨンウク、カン・ウンジン
＊シアター・イメージフォーラムほかにて公開。順次全国公開
ホームページ http://musan-nikki.com/
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
＜ストーリー＞
北朝鮮・ムサンから韓国・ソウルにやってきた脱北者のスンチョル（パク・ジ
ョンボム）。脱北仲間のギョンチョルと安アパートで暮らす彼は、脱北者であ
ることを理由に仕事が見つからず、ポスター貼りのバイトでどうにか日々をし
のいでいた。ある日、教会の聖歌隊メンバーのスギョンに好意を持ち、彼女が
働くカラオケバーで深夜のバイトを始めるスンチョル。スギョンと、街角で拾
った白い犬ペックだけが彼の心のよりどころだったが……。
＜レビュー＞
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
脱北青年の受難と孤独、かすかな希望を鮮烈に描く
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
新人のパク・ジョンボム監督が、製作・監督・脚本・主演を務めた映画。北朝
鮮から脱北してきた青年が、過酷な現実の中で抱えた孤独を鮮烈に描き出して
います。
主人公のスンチョルは、北朝鮮・ムサンから韓国・ソウルにやってきた脱北者。
脱北仲間と安アパートで暮らしていたが、脱北者ゆえまともな仕事につけず、
ポスター貼りのバイトで過ごす日々。そんな彼にとってのわずかな安らぎは、
教会の聖歌隊メンバーのスギョン。彼女に好意を持ったスンチョルは、彼女が
働くカラオケバーで深夜のバイトを始める。そして、ほぼ同時期に拾った白い
犬ペックも彼の心のよりどころになる……。
脱北者を描いた映画ですが、北朝鮮の体制批判をしているわけではありません。
見知らぬ土地で暮らす異邦人の受難と孤独をあぶりだしたドラマ。その分、よ
り普遍的な作品になっています。
監督自ら演じたスンチョルのキャラクターが印象的。おかっぱ頭で、いかにも
純朴（悪く言えばダサダサ）、無口で、不器用で、不良たちに痛めつけられて
も何もできません。同居の脱北仲間が要領よく振る舞っているだけに、なおさ
ら彼の苦境が浮かび上がります。
苦難の日々の中で、次第に大きくなっていく孤独、痛み。そんな中で聖歌隊の
女の子と拾った犬に見出すわずかな希望。インディーズ映画らしい手持ちカメ
ラを多用した映像が、スンチョルの心理と、それを演じるジョンボム監督の思
いをダイレクトに伝えています。
スンチョルが好意を持つスギョンが、カラオケバーで働くことに罪悪感を感じ
ているという設定も効果的。しかも、実はスンチョル自身もある罪を抱えてい
たことが、後半で明らかになります。
後半、ドンづまりの主人公が反撃に出るのは、この手の映画でよくあるパター
ン。とはいえ、完全にブチ切れるわけではありません。自分を痛めつけた不良
に反撃し、同居の仲間と口論する程度。
むしろ彼が踏み出したのは、過去との決別と新たな一歩。髪形を変え、スギョ
ンのいる聖歌隊の練習に参加して賛美歌を歌います。
しかし、これで映画が終わるわけではありません。最後には衝撃的なラスト
シーンが用意されています。観る人によって解釈が異なりそうな意味深なシー
ンです。個人的にはスンチョルの最後の2〜3歩の歩みで、過去との決別を明確
に宣言しているように思えたのですが……。
痛々しく切ないドラマです。同時に人間が生きることの根本に迫る深遠さも持
ち合わせています。
『息もできない』のヤン・イクチュンに続いて、またまた新たな才能が出現し
た韓国映画。その底力を再認識。
≪ぽちの満足度≫
★★★★☆
≪ぽちのオススメ度≫
★★★★☆
（田中ひろあき（ぽち））
〔鑑賞データ〕
2012年5月12日（土）シアター・イメージフォーラムにて。午後4時の回
[「む」のページ] |