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おだやかな日常
（2012年 日本）（上映時間1時間42分）
監督・脚本・編集：内田伸輝
出演：杉野希妃、篠原友希子、山本剛史、渡辺杏実、小柳友、渡辺真起子、山
田真歩、西山真来、寺島進、志賀廣太郎、古舘寛治、木引優子、松浦祐也
＊ユーロスペースほかにて公開。順次全国公開
ホームページ http://www.odayakafilm.com/
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＜ストーリー＞
福島の原発事故の影響が明らかになり始める東京近郊のマンション。ユカコ
（篠原友希子）は、震災後、原発から漏れた放射能に危機感を募らせ、会社勤
めの夫に引越しを迫る。一方、隣の部屋に住むサエコ（杉野希妃）は、夫から
一方的に離婚を切り出される。幼い娘の清美を守りたい一心でマスクをさせ、
放射線量を測るサエコだが、ほかの園児の母親との間に軋轢が生まれ、無言電
話などのバッシングを受ける……。
＜レビュー＞
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原発事故に翻弄される２人の女性をリアルに描く
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東日本大震災による原発事故をテーマにした映画。『ふゆの獣』が高く評価さ
れた内田伸輝監督が、放射能の恐怖におびえ、追い詰められていく2人の女性を
描いています。
描かれるのはマンションの隣人同士のサエコとユカコ。2人に共通するのは福島
からやってくる放射能への恐怖。サエコは幼い娘を守ろうとするあまり、放射
能に敏感に反応して、幼稚園の他の母親たちとの溝が広がります。一方、ユカ
コも放射能への恐怖から夫に引っ越しを迫ります。
2人の行動はドラマの展開とともに、どんどん過激になっていきます。しかし、
サエコには夫との離婚という背景があり、ユカコにも過去の秘密があることに
よって、その行動に違和感を持つことはありません。
とはいえ、その行動は賛否が分かれるでしょう。作り手も短絡的に肯定してい
るわけではありません。彼女たちと対立したり、バッシングする人々も含めて、
日常と非日常のはざまで揺れ動く人々をありのままに描き、観客に重たい問題
提起をしています。
原発事故をテーマにしたフィクションとしては、園子温監督の『希望の国』が
ありますが、あちらがエンターティメントに軸足を残していたのに対して、こ
ちらはドキュメンタリーのように、ひたすらリアルさを追求しています。手持
ちカメラを多用した映像、一瞬アドリブかと思うような役者の演技などを通し
て、重苦しく、息苦しい雰囲気が終始スクリーンを覆います。
舞台を福島でなく東京に据えたのも絶妙。一見、平穏なままの日常に、じわじ
わと放射能の影が伸びてくるようすが切実に感じられます。
風評被害や差別、バッシングなど、原発事故にとどまらない普遍的な人間の一
面も見せつつ、ドラマは終盤へ。正直なところ、「重苦しいまま終わったらど
うしよう？」と危惧していたものの、終盤に用意されていたのは衝撃的な事件
によって2人の女性の人生がクロスし、かすかな希望をともす感動のエンディン
グでした。うーむ、これにはやられましたね。
同時にユカコの夫を通して、まるで何事もなかったように暮らすことへの違和
感を表明。衆議院選挙がああいう結果に終わった直後だけに、なおさらそのメ
ッセージが胸に響きました。
主演の杉野希妃、篠原友希子の熱演も見事。どちらも、それぞれの恐怖や焦燥
感がダイレクトに伝わる演技でした。杉野はプロデューサーとしてもけっこう
仕事をしているようですが、女優としての力量もかなりのものです。
原発事故を描いた映画としても、女性の生きざま（特に母性をクローズアッ
プ）を描いたドラマとしても見応え十分の秀作です。
≪ぽちの満足度≫
★★★★☆（＋1／2★）
（94点）
≪ぽちのオススメ度≫
★★★★☆
（田中ひろあき）
〔鑑賞データ〕
2012年12月23日（日）ユーロスペースにて。午後2時10分の回
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