プンサンケ(豊山犬)


(2011年 韓国)(上映時間2時間1分)
監督:チョン・ジェホン
出演:ユン・ゲサン、キム・ギュリ、キム・ジョンス
*渋谷ユーロスペースほかにて公開。全国順次公開
ホームページ http://www.u-picc.com/poongsan/
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<ストーリー>
38度線を越えてピョンヤンとソウルを行き来する謎の運び屋"プンサンケ"(ユ
ン・ゲサン)。離散家族のビデオメッセージや遺品など、どんな荷物でも3時
間以内に運んでしまう彼のもとに、韓国に亡命した北朝鮮の元高官が残してき
た愛人イノク(キム・ギュリ)をソウルに連れてくるという依頼が舞い込む。
数々の危険を乗り越え、無事イノクを引き渡すものの、実は韓国の情報員だっ
た依頼主に拘束されてしまうプンサンケ。激しい拷問にも決して正体を明かさ
ない彼に、韓国情報部はある提案を持ちかけるのだが……。

<レビュー>
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南北対立の愚かしさを痛烈にアピールしたユニークなサスペンス
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韓国の鬼才キム・ギドク監督が脚本を担当した映画。メガフォンをとるのは、
彼の作品で助監督を務めた新鋭チョン・ジェホン。南北分断の悲劇を大きな
テーマに据えたドラマです。

主人公は38度線を越えて北と南を行き来し、何でも3時間で運んでしまう運び
屋の男プンサンケ。ある時、韓国に亡命した北朝鮮の元高官の愛人イノクを北
から連れてくるように頼まれた彼は、あわやの危機を乗り越えて、無事にイノ
クを引き渡す。だが、実はその依頼主は韓国情報部で、プンサンケを拘束して
しまう……。

厳重すぎる警備をかいくぐり、棒高跳びのように有刺鉄線を超えるブンサンケ。
現実にはありえないけれど、なかなか面白い設定です。彼が南の人間なのか、
北の人間なのかわからないという設定が効果的です。

前半はプンサンケとイノクの北からの脱出劇と、それが巻き起こす様々な波紋
を中心に描かれます。そこでポイントになるのが、2人に芽生える感情。死の
危険に直面しつつ、北からの脱出を図る中で、2人はいつしか惹かれ合います。
それに薄々気づいた元高官は、2人の関係をしつこく問いただします。

南北分断に翻弄されるプンサンケとイノクの思い。そこでは個人の感情など顧
みられず、むしろ格好の利用材料となります。

韓国情報部に拘束され、激しい拷問を加えられるプンサンケ。ここで効いてく
るのが、彼が南の人間か北の人間かわからないという設定。彼を北の人間とみ
なす韓国情報部は、必死で自白させようとします。

一方、その後、韓国に潜入した北朝鮮の工作員に捕らわれたプンサンケは、今
度は彼らから拷問を受けます。北も南も同じように拷問を加える構図から、ど
ちらの権力にも共通した愚かさが伝わってきます。けっして南北のどちらかを
批判した映画ではありません。

南北分断を背景にしつつも、基本はあくまでもサスペンス。あちこちにアクシ
ョンも盛り込みつつ、プンサンケとイノクの運命を描いていきます。テーマ性
を追求しつつも、エンタメとして見せる工夫をしているところは、いかにも韓
国映画らしいところ。

プンサンケとイノクの運命はどうなったのか? 2人の愛の結末は? 哀しくて
切ない結末が観客の涙を誘います。

しかし、この映画のすごいところは、その後の驚きの展開にあります。プンサ
ンケによる復讐劇は、誰も予想しないもの。それは南北の現状を、強烈に風刺
した象徴的な場面です。相互不信と先入観が招く対立と暴力。何とかならんの
かこの現状!

南北対立の愚かしさを強烈にアピールしたサスペンスで見応え十分。ややステ
レオタイプな描写が目立ったり、セリフが過剰な印象はあるものの、見応えは
十分でした。

主演のユン・ゲサンはまったくセリフなし。にも関わらず無骨でミステリアス
なプンサンケを好演していました。たった一度、激しく吠える場面も印象的。

≪ぽちの満足度≫
★★★★☆

≪ぽちのオススメ度≫
★★★☆☆(+1/2★)
                             (田中ひろあき(ぽち))

〔鑑賞データ〕
2012年8月18日(土)ユーロスペースにて。午後2時50分の回


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