少年H


(2012年 日本)(上映時間2時間2分)
監督:降旗康男
出演:水谷豊、伊藤蘭、吉岡竜輝、花田優里音、小栗旬、早乙女太一、原田泰
造、佐々木蔵之介、國村隼、岸部一徳
*TOHOシネマズ有楽座ほかにて全国公開
ホームページ http://www.shonen-h.com/
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<ストーリー>
昭和初期の神戸。名前の頭文字から"H"と呼ばれる少年・妹尾肇(吉岡竜輝)
は、洋服の仕立屋を営む父・盛夫(水谷豊)と母・敏子(伊藤蘭)、妹・好子
(花田優里音)の家族4人で暮らしていた。仕事柄、外国人との付き合いも多
くリベラルな父と、キリスト教の博愛精神にあふれた母のもとで、自分の目で
見て考えることの大切さを教えられるH。だが、時代は急速に軍国化の道を突
き進み、Hの家族や周囲の人々にも影響が及び始める……。

<レビュー>
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庶民の目線から戦争の愚かさ、理不尽さを描く
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舞台美術家でエッセイストの妹尾河童の自伝的ベストセラー小説の映画化。監
督は『ホタル』『鉄道員(ぽっぽや)』の降旗康男。

舞台は昭和初期の神戸。Hと呼ばれる少年の目を通して、戦争に翻弄される家
族や周囲の人々を描いています。

Hの父の盛夫は腕の良い洋服の仕立て屋。外国人との交流もあり、リベラルな
考え方の持ち主です。一方、母の敏子はクリスチャンで博愛精神の持ち主。そ
んな両親のもとで、妹好子とともに育つHは、好奇心と正義感が強く、思った
ことは正直に口にしてしまう少年です。

というわけで、軍人でも政治家でも反戦主義者でもない、ごく普通の庶民の目
線で戦争を描いているのがこの映画の特徴。それがドラマにリアリティーを持
たせています。一見、理想的に見えるHの家族ですが、母の敏子は将来のため
と称して子供たちにわざわざフォークやスプーンで食事をさせたり、無理に標
準語を話させたりする人間臭いところもあります。そういうところも観客に親
しみを感じさせます。

だが、やがてそんな家族にも戦争の影が忍び寄ってきます。近所のうどん屋の
兄ちゃんが共産主義者として逮捕され、映写技師のオトコ姉ちゃんは召集され
るものの行方をくらまして、悲惨な最期を迎えます。それどころか、盛夫一家
もスパイ扱いされてしまうのです。

そんな中で、盛夫は、信念を持ちつつもそれを押し殺して生きる現実的な処世
術をHに教えます。また、戦争が激しくなる中で、盛夫自身は消防士として働
くようになります。戦争に行けない彼が、「何とか役に立ちたい」と考えた末
の行動であり、理想と現実のはざまで揺れ動く彼の複雑な心中を象徴していま
す。

クライマックスは神戸の大空襲。街並みのセットを燃やした空襲シーンは迫力
満点です。

そして、終戦後のドラマも印象的。手のひらを返したような生き方をする元軍
国主義者たち、虚脱感に包まれてどうしていいかわからない盛夫の姿などを、
Hの視線から描きます。それでも最後は、未来への希望の灯をともして、温か
な気持ちにさせてくれます。

久々共演の水谷豊&伊藤蘭夫妻に加え、2人の子役も見事な演技。

笑いあり涙ありのヒューマンドラマでありながら、戦争の恐ろしさや理不尽さ、
そして自分の目で見て考えることの大切さが伝わってくるドラマ。何やらきな
臭い今の時代だからこそ、なおさら観ておくべき映画だと思います。

≪ぽちの満足度≫
★★★★☆
(93点)

≪ぽちのオススメ度≫
★★★☆☆(+1/2★)
                             (田中ひろあき)

2013年8月11日(日)ユナイテッド・シネマとしまえんにて。午後1時45分の回


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