よりよき人生(UNE VIE MEILLEURE)


(2012年 フランス)(上映時間1時間51分)
監督:セドリック・カーン
出演:ギョーム・カネ、レイラ・ベクティ、スリマン・ケタビ、ブリジット・
シィ
*新宿武蔵野館ほかにて公開
ホームページ http://yoriyoki.net/
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

<ストーリー>
学食の調理人ヤン(ギョーム・カネ)は、シェフの採用面接を受けに行ったレ
ストランでウエイトレスのナディア(レイラ・ベクティ)と出会い、恋に落ち
る。彼女の9歳の息子スリマンとも打ち解け、3人で楽しい時間を過ごすよう
になる。そんなある日、3人で出かけた湖畔で廃屋を目にしたヤンは、そこで
レストランを開業することを思いつく。ヤンはローンの頭金を工面するために
消費者金融に手を出し、間もなく多重債務者になる……。

<レビュー>
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
借金まみれの男と母親が去った少年との絆
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

人生を生き直す映画は多いけれど、この作品はそれがうまくいかずにドン底に
落ち込むというお話。ただし、けっして暗いばかりの映画ではありません。

学食の調理人をしていたヤンという男が、ナディアという女性と知り合い、彼
女の息子スリマンと3人で出かけた湖畔で、偶然廃屋を発見。そこでレストラ
ンを開業しようとします。そのための頭金を調達しようと消費者金融に手を出
した結果、開業できないままに借金ばかり膨れ上がります。

初めのうち、ヤンはただの無謀な男にしか見えません。いくら人生をやり直し
たいからといって、あまりにも安易。それを批判したナディアに暴力までふる
います。これでは感情移入などできません。

ところが、その後、彼に対する見方が変わります。ナディアはより高い収入を
得るため、スリマンをヤンに預けてカナダに渡ります。仕方なくヤンはスリマ
ンの面倒を見ます。他に頼るところのないスリマンもヤンと向き合います。そ
うする中で、2人の絆が次第に深まっていきます。

血縁を超えた2人の交流を見ているうちに、ヤンが本当はいいヤツなのがわか
ってきます。途中でナディアが消息を絶ってしまうだけに(あとでその理由が
わかるのですが)、なおさら2人の絆に心を打たれます。

そうはいっても、どうにもならないところまで追い込まれたヤンは、ある行動
を起こします。そして、その後に明らかになる衝撃的な出来事。けっして安易
なハッピーエンドではないけれど、「よりよき人生」に向けたかすかな希望の
光を見せて、ドラマは終わります。

セドリック・カーン監督は、移民問題や多重債務、格差社会などの問題を盛り
込んで社会の厳しい側面を見せつつも、ヤンたちを終始温かな視線で見守りま
す。被写体にピッタリ寄り添うのでも、完全に突き放すのでもない絶妙な距離
感が魅力的。

押し付けがましくない、さりげない感動が味わえる映画です。地味ですが観る
価値は十分にあります。

≪ぽちの満足度≫
★★★★☆
(93点)

≪ぽちのオススメ度≫
★★★★☆
                            (田中ひろあき)

〔鑑賞データ〕
2013年2月16日(土)新宿武蔵野館にて。午後3時50分の回


[「よ」のページ]