イーダ(IDA - FORMERLY SISTER OF MERCY)


 (2013年 ポーランド)(上映時間1時間20分)
監督:パヴェウ・パヴリコフスキ
出演:アガタ・クレシャ、アガタ・チュシェブホフスカ、ダヴィッド・オグロドニック、イェジー・トレラ、アダム・シシュコフスキ、ハリナ・スコチンスカ、ヨアンナ・クーリグ
*シアター・イメージフォーラムにて公開
ホームページ http://mermaidfilms.co.jp/ida/
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

<ストーリー>
1962年のポーランド。孤児として修道院で育てられた見習い尼僧アンナ(アガタ・チュシェブホフスカ)は、ある日、院長から唯一の肉親である叔母ヴァンダ(アガタ・クレシャ)の存在を告げられ、修道女になる前に一度会うように勧められる。さっそくヴァンダのもとを訪ねたアンナ。するとヴァンダは"あなたはユダヤ人で本当の名前はイーダだ"と伝えられる。やがて彼女はヴァンダとともに、自らの出生と両親の死の秘密を探るために旅へ出るのだが……。

<レビュー>
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
緻密で美しい映像でつづられる悲劇の歴史と少女の変容
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

映像が圧倒的に素晴らしい映画です。モノクロで昔風のスタンダードサイズの画面。緻密に考え抜かれた構図。どのシーンも絵画を見ているようで、あとあとまで心に残ります。

描かれるのは1人の少女の自分探しの旅。修道院で孤児として過ごすアンナは、ある日、院長から叔母がいると告げられ、「修道女になる前に会いに行きなさい」と勧められます。イーダが会いに行ってみると、叔母は「あなたはユダヤ人で、本当の名前はイーダという」と衝撃的な事実を伝えます。そして、2人はイーダの両親の死の真相を探る旅に出ます。

ドラマの中心になるのは、ユダヤ人迫害の歴史。といってもナチスではなく、ポーランド人自らが関わったという忌まわしい過去。さらに、この映画の舞台となった1962年当時のポーランドが社会主義政権だったという事実が、事態を複雑にしています。

そうした事情を知らないで観ても、十分に伝わってくるものがある映画です。ロードムービー的展開の中で印象的なのが、イーダと叔母のヴァンダの対照的な佇まい。純粋無垢で清らかなイーダの瞳。それに対して、自堕落で、酒、タバコ、男に溺れる叔母。しかし、やがて彼女がそうなった原因が明らかになります。

そして、自分は何者なのかという厳しい問いを突き付けられたイーダも、後半で変容していきます。

あくまでも静謐な映像。セリフも最小限。登場人物の感情を押し殺すような静けさが漂い、それでも隠しきれない感情がふつふつと泡のように浮かびあがります。

ラスト近くで、すべてが明らかになると同時に事態は急展開します。イーダも、以前の彼女とは明らかに違ってしまいます。そして、彼女が取った行動は……。

ラストで延々と道を歩きながら、様々な表情を見せるイーダの姿が、多くのことを想起させます。自らの過酷な運命と歴史を見すえた彼女の思いが、深い余韻を残します。

≪ぽちの満足度≫
★★★★☆
(92点)

≪ぽちのオススメ度≫
★★★★☆
                             (田中ひろあき)

〔鑑賞データ〕
2014年8月16日(土)シアター・イメージフォーラムにて。午後2時30分の回


[「い」のページ]