それでも夜は明ける(12 YEARS A SLAVE)


(2013年 アメリカ)(上映時間2時間14分)
監督:スティーヴ・マックィーン
出演:キウェテル・イジョフォー、マイケル・ファスベンダー、ベネディク
ト・カンバーバッチ、ポール・ダノ、ポール・ジアマッティ、ルピタ・ニョン
ゴ、サラ・ポールソン、ブラッド・ピット、アルフレ・ウッダード
*TOHOシネマズ みゆき座ほかにて全国公開
ホームページ http://yo-akeru.gaga.ne.jp/
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

<ストーリー>
1841年、ニューヨークに暮らす自由黒人で音楽家のソロモン・ノーサップ(キ
ウェテル・イジョフォー)は、愛する家族とともに幸せな生活を送っていた。
だが、ある日、騙されて拉致され、南部のニューオーリンズの奴隷市場に送ら
れてしまう。大農園主に買われて奴隷として働くようになるソロモンだったが
……。

<レビュー>
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
人種差別の非人間性がダイレクトに伝わる衝撃作
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

第86回アカデミー作品賞を受賞した実話をもとにしたドラマ。監督はセックス
依存症の男を描いた『SHAME シェイム』で注目を集めたスティーヴ・マック
ィーン。

1841年、奴隷制度はまだあるものの、普通の市民として暮らせる自由黒人も存
在した時代。二ューヨークに住む自由黒人のソロモンは、白人の友人も多くい
るバイオリニストで、奥さんや子供と幸せに暮らしていました。ところが、あ
る日、興行に参加した後で興行主に騙され、南部に連れていかれて奴隷市場で
売られてしまいます。そこから12年間、彼は奴隷としてとんでもない生活を送
るのでした。

映画の冒頭は、すでに奴隷となって過酷な生活を送るソロモンの姿。そこから
観客はソロモンに同化し、彼の12年間に渡る痛みや苦しみを追体験することに
なります。そんな導入部だけで、この映画のスゴサがわかります。

差別された黒人を描いた映画は、今までにもたくさんありましたが、ここまで
徹底的に差別される側に立った映画は、あまりなかった気がします。しかも、
そこでの主人公たち奴隷の体験が壮絶すぎます。

最初に売られた先の農場主はまだマシだったのですが、次に売られたところは
地獄のよう。特に恐ろしいのがムチ打ちです。血が飛び、肉がえぐれる痛すぎ
る映像。ソロモンが縛り首のリンチにあい、首に縄をかけられたまま爪先立ち
の姿勢で放置されるシーンは、言葉を失うほどの衝撃でした。

いったいどうして、人間はこんなに恐ろしいことができるのでしょうか。人間
の奥底のどす黒い部分を突きつけられた気がして、どんどん息苦しくなってき
ます。それでも、けっして目をそらすことができません。

過酷な日々の中でも、ソロモンは尊厳を失わず、いつか脱出することを夢見て
います。いったんそのチャンスが訪れかけるものの、失敗に終わります。それ
でもあきらめない彼の前に、ある人物が現れます。それはこの映画のプロデ
ューサーでもあるブラッド・ピット演じる進歩的な白人。彼がキーパーソンに
なり、最後には邦題通りに明るい光が灯ります。

この映画の主人公は違法に奴隷にされた自由黒人ですが、マックィーン監督の
視点は、当然ながら奴隷制度そのものに向けられています。その凄惨な実態を
観客に突き付け、「二度とこんなことをしてはいけない!」と強いメッセージ
を発しています。さらに、そのターゲットは、現代社会の差別や虐待にも向け
られているのだと思います。

受賞は逃したもののオスカー主演男優賞にノミネートされたキウェテル・イジ
ョフォー、そして助演女優賞を獲得したルピタ・ニョンゴの演技にも注目です。
さらに、農園主を演じるベネディクト・カンバーバッチやマイケル・ファスベ
ンダーも素晴らしい演技。

見応えはメガトン級。ただのヒューマンドラマというだけでなく、人間の奥底
に迫った点で、ここ数年の映画の中でも傑作といえる作品だと思います。

≪ぽちの満足度≫
★★★★☆(+1/2★)
(96点)

≪ぽちのオススメ度≫
★★★★☆(+1/2★)
                             (田中ひろあき)

〔鑑賞データ〕
2014年3月7日(金)ユナイテッド・シネマとしまえんにて。午後12時45分の回


[「そ」のページ]