|
ハッピーアワー
（2015年 日本）（上映時間5時間17分）
監督：濱口竜介
出演：田中幸恵、菊池葉月、三原麻衣子、川村りら、申芳夫、三浦博之、謝花
喜天、柴田修兵、出村弘美、坂庄基、久貝亜美、田辺泰信、渋谷采郁、福永祥
子、伊藤勇一郎、殿井歩、椎橋怜奈
＊シアター・イメージ・フォーラムほかにて公開
ホームページ http://hh.fictive.jp/
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
＜ストーリー＞
30代後半の４人の女性。あかり（田中幸恵）、桜子（菊池葉月）、芙美（三原
麻衣子）、純（川村りら）。何でも話せる親友同士だと思っていた４人だが、
純が1年にわたって離婚協議中であることが発覚。動揺した４人は、つかの間の
慰めにと有馬温泉へ旅行に出かけ、楽しい時間を過ごすのだが……。
＜レビュー＞
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
アラフォー女性４人の友情と迷いを描く、常識を覆す超長編映画
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
３部合計して5時間17分という驚異の上映時間の映画。波乱万丈の大河ドラマな
らまだしも、アラフォー女子４人の友情と人生の岐路を描く小ぶりなストー
リー。しかし、これが実に面白いのです。最初から最後まで飽きることなく鑑
賞できました。
１部では４人のアラフォー女性（あかり、桜子、芙美、純）の友情が描かれま
す。特に時間をかけて描かれるのが、彼女たちが参加するワークショップとそ
の打ち上げ。何やら、この映画自体の不安定さを象徴するような怪しさ満点の
シーン。それは、４人の女性たちの置かれた立場とも共通します。
バツイチ独身の看護師のあかりは、病院で知り合った男性からアプローチを受
けるものの今は恋愛をする気になれずにいます。中学生の息子がいる主婦の桜
子は、多忙な夫を支えながら心に隙間風を感じています。編集者である夫を持
つ芙美は、表面的には良好な夫婦関係に見えるものの何やら不安を抱えている
様子。さらに、純は１年にわたって離婚調停中であることが発覚します。
というわけで、２部の幕開けは純の離婚裁判。その後は有馬温泉に旅行に出か
けた４人が描かれます。それはとても楽しい時間。しかし、４人の身辺は次第
にグラグラと揺れだします。そして、ついに純は失踪……。
最後の３部では、芙美の夫が担当する若手女性作家の朗読会と、その打ち上げ
の様子などが描かれます。それによって、芙美に決定的な出来事が起き、他の
女性たちにも波乱が起きます。
何しろこんなに長い上映時間なので、２時間程度の映画ならすっ飛ばして描か
れるような場面がじっくりと描かれます。それによって４人の女性をはじめ、
登場人物の心理がリアルに伝わってくる仕掛けです。会話中心のドラマですが、
それ以外にも微妙な空気感などが伝わってきます。特に、最初は理想に近い友
人関係に見えた４人の距離が、少しずつ変化するあたりの描写は特筆もの。
そうした描写は、同時に独特の緊張感も生み出しています。いったいこの人ら
は何を考えて、何を話して、どう行動するのか。先の予想がつきません。
意図したものなのか偶然なのか。長尺を見せる工夫もあります。特に笑い。１
部の謎のワークショップをはじめ、そこはかとない笑いが随所に配されて、全
体を包む緊張感を一時的に緩めてくれます。
主役の４人を演じるのは、演技経験のない女性たち。一見、どこにでもいそう
な人たちですが、ワークショップを通じて作り上げたという演技は絶品。嘘く
ささがまったくないし、どれも説得力のある演技。橋口亮輔監督の『恋人た
ち』もそうでしたが、こういうスタイルの演者たちは侮れません。脇役の人た
ちもみんな印象的でした。
クライマックスでは、やや唐突な出来事が起きます。そのあたりは少しバタバ
タした感じもしますが、ほんのわずかな希望の灯をともす方向性は悪くありま
せん。何よりも、この映画では描かれない４人の女性たちの今後を想像させる、
余韻の残るエンディングでした。
この映画を観て、人生について様々なことを考えさせられました。特に他者と
の向き合い方について。愛するとはどういうことなのか。他人を思いやるとは
どういうことなのか。簡単に答えの出ない根源的なテーマが私の胸にグサリと
突き刺さりました。
従来の常識ではこんな長編映画にはなりえなかった素材。それを上映時間の制
限を取っ払って、これだけ面白く深みのある作品に仕上げたのですから、これ
はもう新しい映画表現といえるかもしれませんね。主人公と同じアラフォー女
子はもちろんですが、それ以外の人たちも、絶対に観る価値のある映画だと思
います。
≪ぽちの満足度≫
★★★★☆（＋1／2★）
（96点）
（田中ひろあき）
2016年1月10日（日）シアター・イメージ・フォーラムにて。午後１時の回＆３
時の回＆５時の回
[「は」のページ] |
|