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岸辺の旅
（2015年 日本）（上映時間2時間8分）
監督：黒沢清
出演：深津絵里、浅野忠信、小松政夫、村岡希美、奥貫薫、赤堀雅秋、千葉哲
也、蒼井優、首藤康之、柄本明
＊テアトル新宿ほかにて全国公開
ホームページ http://kishibenotabi.com/
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＜ストーリー＞
ピアノ教師の瑞希（深津絵里）のもとに、３年間行方不明だった夫の優介（深
津絵里）が帰ってくる。だが、彼は「自分は富山の海で死んだ」と語る。やが
て優介は、自分が旅してきた美しい場所を瑞希にも見せたいと、彼女を旅に誘
う。こうして２人は、優介の３年間の足跡を辿り、彼が交流した様々な人に会
っていく……。
＜レビュー＞
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死者と生者がともに存在することを示す夫婦愛の物語
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世界的に評価の高い黒沢清監督の映画。この作品も、第68回カンヌ国際映画祭
の「ある視点」部門で監督賞を受賞しました。
主人公は子供にピアノを教えている瑞希という女性。彼女の夫の歯科医の優介
は３年前に疾走して行方不明。ところが、突然彼が帰ってきます。しかも「自
分は富山の海で死んだ」と言うのです。やがて、優介の提案で２人は旅に出ま
す。それは優介が３年間旅してきた場所です。
というわけで、死者である夫と生者である妻が旅するユニークな映画です。夫
婦が最初に訪れたのはある新聞専売所。そこの店主は一見元気なようですが、
本当はすでに亡くなっています。続いて訪れた中華料理店の店主夫妻は元気で
すが、妻は幼いころに死んだ妹への思いを引きずっています。そして、最後に
訪れた農村では、夫を亡くした妻があたかも死者のようにふるまっています。
このように、この映画では生者と死者の間には隔たりがありません。普通は死
者は生者には姿が見えないものですが、この映画では姿が見えるだけでなく、
一緒に行動したり会話を交わします。
基本は夫婦の愛の物語です。中盤で夫の不倫を巡って夫婦が言い争い（こうい
う笑えるシーンがあるのもこの映画の特徴）、妻がその不倫相手に会いに行く
ところなどは、典型的なメロドラマ風。
それでも、この夫婦には常に死の影が付きまといます。まるで生きているよう
な死者たちですが、それでもいつかは消えていきます。妻は夫が消えることを
恐れています。それが両者の結びつきを強め、美しく哀しいメロディーを紡ぎ
だしています。
同時に、あの世とこの世は一続きであり、生者も死者もともに存在しているこ
とを感じさせる映画でもあります。夫婦が訪れた村には、あの世とこの世をつ
なぐといわれる洞窟があり、死んだ妻の父親が出現したりします。
生者は死者に対して様々な思いを抱きながら生き、死者は生者に対して様々な
思いを残したまま死んでいった。その両者があの世とこの世を越えてつながる
のは、ある意味自然なことかもしれません。
そんな死生観に加え、宇宙の存在や生命賛歌なども織り込んだ映画です。これ
までに数々のホラー映画を撮ってきた黒沢監督ですが、それを哲学的、根源的
なテーマと融合させた点で、一つの集大成といえる作品かもしれません。
心に染み入るような映画でした。時間が経つうちにジンワリきました。私的に
は、過去の黒沢作品の中でも上位にランクされそうです。
それにしても、いまさらですが深津絵里ってキレイですね。中盤でちょっぴり
出る蒼井優との対決もいい味を出していました。
≪ぽちの満足度≫
★★★★☆
（92点）
（田中ひろあき）
〔鑑賞データ〕
2015年10月2日（金）テアトル新宿にて。午後1時10分の回
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