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恋人たち
（2015年 日本）（上映時間2時間20分）
監督・脚本：橋口亮輔
出演：篠原篤、成嶋瞳子、池田良、安藤玉恵、黒田大輔、山中崇、内田慈、山
中聡、リリー・フランキー、木野花、光石研
＊テアトル新宿ほかにて公開
ホームページ http://koibitotachi.com/
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＜ストーリー＞
橋梁点検の仕事をするアツシ（篠原篤）は、数年前に妻を通り魔殺人事件で失
い、喪失感と憎しみから立ち直れずにいる。不愛想な夫と姑と３人で暮らす主
婦、瞳子（成嶋瞳子）は、パート先に出入りする精肉業者と親しくなっていく。
同性愛者で完璧主義のエリート弁護士、四ノ宮は、学生時代から秘かにある男
友達に思いを寄せていたが、その妻に小児性愛の疑いをかけられてしまう……。
＜レビュー＞
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どうにもならない日常を抱える３人の絶望と再生
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橋口亮輔監督の前作『ぐるりのこと。』は、2008年の邦画ベスト1を争うほどの
素晴らしい映画でした。それから７年ぶりの橋口監督の新作。深い苦悩を抱え
る３人の男女の絶望と再生のドラマです。
１人めの主人公は、有能な橋梁点検技師のアツシ。彼は３年前の衝撃的な事件
の傷から立ち直れずにいます。２人めの主人公は主婦の瞳子。夫と姑とともに
退屈な毎日を送っています。３人めの主人公は弁護士の四ノ宮。同性愛者の彼
はエリート意識の塊のような男です。
彼らの登場シーンから引き込まれてしまいます。妻との幸せな日々を語るアツ
シ。ところが、部屋は荒れ放題で幸せとは無縁です。また、瞳子は仲間たちと
皇太子妃の追っかけをするビデオを見ながら、疲れたようにタバコを吹かしま
す。そして、バリバリの若手弁護士の四ノ宮は、バカにしたような態度で顧客
に接しています。
そんな彼らの苦悩をリアルに、痛いほどに、スクリーンに刻み付けていくのが
橋口監督の真骨頂。ほんのわずかな表情の変化やしぐさで、彼らの絶望的な状
況を描き出します。
アツシは裁判で恨みを晴らそうとするものの、なかなか思うようにいかず、自
暴自棄になっていきます。瞳子は、パート先に出入りする精肉業者の男と親し
くなるものの、その男は何やら怪しい雰囲気。四ノ宮は学生時代から思いを寄
せる男友達の妻から、小児性愛の疑いをかけられてしまいます。
橋口監督は彼らの心の内をすくい取るだけでなく、思いを直接的に告白させる
シーンも用意します。いわば硬軟取り混ぜて、彼らの苦悩を見せつけるのです。
観ているこちらにとっても痛々しいほどの描写です。
３人の主役が、どこにでもいる欠点だらけの人物だというキャラクター設定も、
ドラマのリアルさにつながっています。おまけに主演俳優３人はまったくの無
名。それがますますリアルさをかき立てます。ただし、橋口監督のワークショ
ップで鍛えたというだけに、確かな演技力の持ち主でもあります。
３人のドラマを通して、犯罪被害者に対する冷たい世間の態度、主婦に対する
無理解や無関心、同性愛者に対する偏見など、日本の社会が抱える問題点も浮
かび上がってきます。
というと、なんだか観るのがツライ映画のように思えるかもしれませんが、け
っしてそうではありません。橋口監督はあちらこちらに笑いのスパイスをふり
かけて、緊張を弛緩させてくれます。「美女水」の話なんて爆笑モノです。
そして何よりも、この映画の最後には希望の光がしっかりと灯されています。
詳しく書くとネタバレになるのでやめますが、アツシも、瞳子も、四ノ宮も、
新たな一歩を踏み出そうとします。それは、けっしてぶっ飛んだ飛躍ではなく、
地に足がついたもの。だからこそ、観終わってすがすがしい気分になれるので
す。
そこにはどんなに世の中がひどくても、絶望が深くても、生きていくことを肯
定する橋口監督の強い意志が感じられます。アツシに絶妙の距離感で接する同
僚の元新左翼活動家の姿が語りかけています。けっして一人ぼっちじゃない。
生きていればいいこともある、と。今の時代に、観るべき１本です。
≪ぽちの満足度≫
★★★★☆（＋1／2★）
（96点）
（田中ひろあき）
〔鑑賞データ〕
2015年11月20日（金）テアトル新宿にて。午後12時50分の回
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