|
最愛の子（親愛的／DEAREST）
（2014年 中国・香港）（上映時間2時間10分）
監督：ピーター・チャン
出演：ヴィッキー・チャオ、ホアン・ボー、トン・ダーウェイ、ハオ・レイ、
チャン・イー、キティ・チャン
＊シネスイッチ銀座ほかにて公開。全国順次公開
ホームページ http://www.bitters.co.jp/saiainoko/
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
＜ストーリー＞
2009年７月18日。中国・深セン。ネットカフェを経営するティエン（ホアン・
ボー）は３歳の息子ポンポンと二人暮らし。だが、ある日、ポンポンが何者か
にさらわれてしまう。ティエンはポンポンの母である元妻ジュアン（ハオ・レ
イ）とともに必死で息子を捜すが、消息はつかめなかった。それから、３年後、
ある農村で暮らす息子を見つける２人。ところが、６歳に成長した息子は実の
親のことを覚えておらず、誘拐犯の妻で育ての親であるホンチン（ヴィッ
キー・チャオ）を慕うのだった……。
＜レビュー＞
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
子を思う親の切ないドラマに中国の社会問題を盛り込む
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
ピーター・チャン監督の『ラヴソング』(1996年)は、切ないラブストーリーで
した。わかっていても、つい涙腺を刺激されます。そして、この映画も同じよ
うに、わかっていても涙腺を刺激されるのでした。
中国で実際に起こった児童誘拐事件を基にしたドラマです。中国・深センのネ
ットカフェ店主ティエンは、一人息子のポンポンと暮らしています。ポンポン
の母親で元妻のジュアンは別の男と結婚して、週に一度だけポンポと過ごして
います。そんな中、遊びに出かけたポンポンが何者かにさらわれてしまいます。
ティエンとジュアンは必死に息子を捜します。
ティエンはインターネットで情報を求め、何度も詐欺にあいそうになります。
それでも、同じ境遇の親の会に入って捜し歩くうちに、３年後についにポンポ
ンがある農村で暮らしていることを突き止めます。
こうしてポンポンを取り戻すことに成功したティエンとジュアン。しかし、ポ
ンポンは彼らのことを忘れていて、誘拐犯の妻である育ての母ホンチンを心か
ら慕っています。
というわけで、突然子供を失った両親の苦悩、悲しみ、後悔の念などを抑制的
に映し出す前半。まさにツボを心得た演出と演技で、観客を切なさのるつぼに
誘い込みます。ここまででも、何度も涙する人がいそうです。
そして後半。意外な構成が用意されています。今度は、ポンポンの育ての親ホ
ンチンに焦点を当てたドラマを展開。ホンチンは子供がおらず、夫が連れてき
た２人の子供を育ててきました。しかし、ポンポンは実の親であるティエンと
ジュアンに引き取られ、親のわからない下の子は施設に引き取られてしまいま
す。
そうです！ 今度は誘拐犯の妻ホンチンが子供を失ってしまうのです。その苦
悩と悲しみ、葛藤が状感たっぷりに描かれます。おかげで、観客はまたしても
涙腺を刺激されてしまいます。しかも、ホンチンはせめて下の子だけでもわが
手に取り戻そうと、若い弁護士に頼み込んで裁判所に訴えます。そのなりふり
構わない姿に思わず涙。
などというと、ただのお涙頂戴映画のように思えるかもしれませんが、けっし
てそうではありません。ドラマの背景として、現代中国が抱える社会問題にも
鋭く切り込んでいます。児童誘拐の横行、一人っ子政策、出稼ぎに見られる都
市と農村の貧富の格差、司法の混乱ぶりなどなど。それらを本筋のドラマを崩
さない形で、しっかりと描き込んでいます。
また、誘拐された子供の親の会のリーダーや、若い弁護士のドラマも描き込ま
れて、映画全体に厚みを加えています。さらに、ティエンたちが息子を捜して
取り戻そうとする場面では、ミステリー的な魅力も味わえる映画です。
３人の親たちを演じたヴィッキー・チャオ、ホアン・ボー、ハオ・レイの熱演
も見もの。泣ける感動のドラマでありながら、深みもちゃんと備えた映画。
ピーター・チャン監督の熟練の技が光ります。身応え十分です。
≪ぽちの満足度≫
★★★★☆
（92点）
（田中ひろあき）
〔鑑賞データ〕
22016年1月17日（日）シネスイッチ銀座にて。午後1時10分の回
[「さ」のページ] |
|