サンドラの週末
(DEUX JOURS, UNE NUIT/TWO DAYS, ONE NIGHT)


(2014年 ベルギー・フランス・イタリア)(上映時間1時間35分)
監督・製作・脚本:ジャン=ピエール・ダルデンヌ、リュック・ダルデンヌ
出演:マリオン・コティヤール、ファブリツィオ・ロンジョーネ、クリステ
ル・コルニル、オリヴィエ・グルメ、カトリーヌ・サレ
*Bunkamuraル・シネマ、ヒューマントラストシネマ有楽町ほかにて公開。全
国順次公開
ホームページ http://www.bitters.co.jp/sandra/
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

<ストーリー>
夫と2人の子供と暮らすサンドラ(マリオン・コティヤール)。体調不良によ
る休職から復帰しようとした矢先、会社から社員のボーナス支給のために解雇
を言い渡される。それでも、どうにか週明けの月曜日に職員たちによる投票を
行う約束を取り付ける。ボーナスをあきらめてサンドラを再び迎えることに賛
成する者が多ければ、解雇を撤回するというのだ。そこでサンドラは週末、同
僚たちを説得してまわるのだが……。

<レビュー>
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
究極の選択を迫る女性を通して伝わる連帯の大切さ
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

『息子のまなざし』『少年と自転車』『ある子供』などで知られて、カンヌ映
画祭の常連でもあるベルギーのジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ兄弟
の新作です。

主人公は体調不良(うつ病らしい)で休職していたサンドラという女性。よう
やく復職しようとしたら、会社から解雇を通告されてしまいます。その理由が
「サンドラの復職か、ボーナス支給か」という社員投票をしたら、ボーナス支
給が多かったからというもの。ショックを受けたサンドラは、同僚の助けもあ
って、週明け月曜に再投票して、「サンドラの復職」が上回ったら、復職させ
るという約束を取り付けます。

というわけで、週末の2日間、社員たちを回って、「自分のためにボーナスを
諦めて欲しい」と説得するサンドラの姿が描かれます。

ダルデンヌ兄弟の持ち味は、ひたすらリアルな描写です。この映画でも、苦境
に立たされて揺れ動くサンドラの心理をリアルに切り取っています。手持ちカ
メラを多用し、彼女の表情を中心に描写していきます。『エディット・ピアフ
〜愛の讃歌〜』『君と歩く世界』のマリオン・コティヤールの繊細な演技も見
逃せません。

サンドラの説得に対して、とりつくしまもなく拒否する相手もいれば、迷いに
迷う人もいます。そして、賛成してくれる人もいます。そんな彼らに共通する
のは、彼らなりの事情を抱えていること。悪意を持ってサンドラを拒否する人
はほとんどいません。なかには、この問題が原因で家庭不和が起きてしまう
ケースもあります。だから、なおさらサンドラは、つらくなるわけです。そん
なサンドラと一緒に、観客もつらい気持ちを追体験してしまいます。

クライマックスは月曜日の再投票。はたして、どんな結果になるのか。そこも
劇的に盛り上げるようなことはなく、淡々と、そしてリアルに描かれます。

しかし、ポイントは投票結果より、その後のある提案とそれに対するサンドラ
の選択です。そこではサンドラの成長がくっきりと示されます。最初は精神的
に弱々しく、夫の励ましでどうにか行動していた彼女ですが、ラストに至って
自ら決断し、行動します。その明るく力強い表情が心に残ります。すがすがし
いエンディングです。

ダルデンヌ兄弟の映画には声高なメッセージはありませんが、社会問題がきっ
ちりと織り込まれています。今回も、現在の経済や雇用環境に対する問題意識
が根底にあり、サンドラの姿を通して、世の中の不条理と闘うことの大切さが
伝わってきます。それも、他人を思いやり、連帯して一緒に戦うことの大切さ
です。そういう点でも、観る価値は十分にある映画です。

≪ぽちの満足度≫
★★★★☆
(92点)

≪ぽちのオススメ度≫
★★★★☆
                             (田中ひろあき)

〔鑑賞データ〕
2015年5月24日(日)ヒューマントラストシネマ有楽町にて。午後2時30分の回


[「さ」のページ]