起終点駅 ターミナル


(2015年 日本)(上映時間1時間51分)
監督:篠原哲雄
出演:佐藤浩市、本田翼、中村獅童、和田正人、音尾琢真、泉谷しげる、尾野
真千子
*丸の内TOEIほかにて全国公開
ホームページ http://www.terminal-movie.com/
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<ストーリー>
北海道・旭川で裁判官として働いていた鷲田完治(佐藤浩市)は、法廷で学生
時代の恋人だった結城冴子(尾野真千子)と再会し、逢瀬を重ねるようになる。
妻子を捨てて冴子と暮らそうとする完治だが、冴子は目の前で命を絶つ。それ
から25年、完治は自分自身に罰を課すように、釧路で国選弁護人としてひっそ
りと生きていた。そんなある日、弁護を担当した若い女性、椎名敦子(本田
翼)が完治の自宅を訪ねてきて、ある人を探してほしいと依頼する。最初は断
る完治だったが、家族に見放され誰にも頼らずに生きてきた敦子の存在が、彼
の心を少しずつ動かしていく……。

<レビュー>
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孤独な男と女の交流が止まっていた人生を動かす
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直木賞作家・桜木紫乃の短編小説を『はつ恋』『深呼吸の必要』『山桜』など
の篠原哲雄監督が映画化しました。

物語の始まりは25年前。北海道・旭川に単身赴任していた鷲田完治という裁判
官のもとに、学生時代の恋人だった結城冴子という女性が被告人として現れま
す。執行猶予付きの判決を受けた彼女が働くスナックに通うようになった完治
は、彼女とまた関係を持つようになります。そして、完治が東京に戻る日、妻
子を捨てて冴子と暮らそうと決めた完治の前で、冴子は自殺してしまいます。

そして25年後、完治は妻子と別れて釧路で弁護士をしています。しかも、国選
弁護しか引き受けずひっそりと暮らしています。それはまるで自分に罰を課し
ているようでした。そんなある日、彼は覚醒剤がらみの事件で椎名敦子という
若い女性を弁護します。判決後、敦子は完治の自宅を訪ねてきて、人探しを頼
みます。最初は断る完治でしたが……。

このドラマの中心は、完治と敦子の交流にあります。完治には長いこと会って
いない息子がいて、彼とのエピソードがあちこちに出てきます。そんな息子へ
の思いが敦子に投影されていることが自然に伝わってきます。いわば2人は父
娘のような関係。ただし、それだけではありません。いくつかのシーンを通し
て、年の離れた恋人同士のような感じも伝わってきます。

そして何よりも、2人とも過去の傷を負い、孤独な日々を送っています。かつ
て恋人を亡くし、妻子とも別れた完治。一方、敦子も家族にまつわる大きな影
を背負い、今もある闇を抱えています。そんな孤独という共鳴が2人を強く結
びつけます。

ザンギやイクラといった北海道らしい料理を巧みに使って、2人の交流をてい
ねいに描いていく篠原監督の手法が秀逸です。そのほかにも様々なディテール
を積み重ねて、微妙な関係をそのままスクリーンに刻み付けます。「年の差カ
ップル?」などと穿って見始めた私ですが、途中からは2人のかけがえのない
絆に心を打たれて、すっかり温かな気持ちになってしまいました。

佐藤浩市と本田翼の演技も印象的。過去を背負って前に踏み出せない男が少し
ずつ変わっていく様子を繊細に演じた佐藤浩市。今どきの女の子全開でいなが
らチラチラと暗い影を見せる本田翼。見事なコラボでした。

2人の心は少しずつ溶け出し、それぞれが前に進み始めます。その大きな転機
になるのが、2人で敦子の実家を訪ねて、そこで遭遇するある出来事。

ラストでは敦子の自立と完治の再生が描かれます。新たな街へと旅立つ敦子。
駅頭での2人の感動の名シーン。「もう戻って来るな」の完治のセリフを聞い
て、不覚にも私はウルウルきてしまいました。そして、今度は完治の出発。こ
こもまた素晴らしいシーンで、また涙がこみ上げてきたのでした。2回も泣き
たくなるなんて!

観終わって「起終点駅」というタイトルの意味がよくわかりました。終わった
と思ったところから、また始まることもあるんですねぇ。派手さはまったくな
い映画ですが、心にジンワリきます。温かな感動を味わいたい方はぜひ。

≪ぽちの満足度≫
★★★★☆(+1/2★)
(95点)
                             (田中ひろあき)

〔鑑賞データ〕
2015年10月30日(金)東京国際映画祭P&I上映(TOHOシネマズ六本木ヒルズ)にて



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