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アズミ・ハルコは行方不明
（2016年 日本）（上映時間1時間40分）
監督：松居大悟
出演：蒼井優、高畑充希、太賀、葉山奨之、石崎ひゅーい、菊池亜希子、山田
真歩、落合モトキ、芹那、花影香音、柳憂怜、国広富之、加瀬亮
＊新宿武蔵野館ほかにて全国公開
ホームページ http://azumiharuko.com/
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＜ストーリー＞
ある郊外の街。実家で両親と祖母と暮らす27歳の安曇春子（蒼井優）。家でも
会社でもストレスを抱えて、満たされない日々を送っていた。ある日、彼女は
男だけを無差別に襲う女子高生のギャング団に暴行された幼なじみの曽我と再
会する。一方、20歳の愛菜（高畑充希）は、成人式の会場で中学時代の同級生、
ユキオと出会う。ユキオと友人の学は、"キルロイ"と名乗って、行方不明にな
った安曇春子のポスターをモチーフにしたグラフィティアートを描き始める…
…。
＜レビュー＞
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今を生きる女性たちをアバンギャルドに描き出す
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山内マリコの小説を『アフロ田中』『私たちのハァハァ』などの松居大悟監督
が映画化しました。タイトル通りに、蒼井優扮する安曇春子（アズミ・ハル
コ）が行方不明になる話。ところが、彼女が途中でスクリーンから消えること
はありません。
なぜか？ それは時制をバラバラにしているからです。彼女が行方不明になる
前と後がランダムにバラまかれ、そこに様々なエピソードが絡んできます。実
にユニークでアバンギャルドな映画です。
主人公の安曇春子は、27歳の独身OL。家では両親と認知症の祖母と暮らし、ス
トレスのたまる毎日。そして会社でも、安い給料の上、社長と専務のセクハラ
攻撃にさらされています。そんなある日、彼女は幼なじみの曽我と再会し、関
係を持つようになります。
そんな彼女のドラマと並行して描かれるのが、20歳の愛菜という女の子のドラ
マ。これといった目的もなく毎日を過ごす彼女は、ユキオという中学時代の同
級生と出会い、彼との恋愛で心の隙間を埋めようとしますが、なかなかうまく
いきません。
そのユキオは学という友達とともに、覆面アーティストのバンクシーに憧れて、
"キルロイ"という名前でグラフィティアートを始めます。それは行方不明にな
った安曇春子の捜索ポスターをもとにした作品。それがＳＮＳなどでどんどん
拡散していきます。
そしてもう一つのエピソードが、女子高生ギャングの大暴れ。彼女たちは、男
たち（特に女子高生を性的対象にする）を集団でボコボコにします。
こういうエピソードがバラバラに登場するので、とてもわかりにくい映画です。
途中までは、いったいこの映画が何を描こうとしているのか、さっぱりわかり
ませんでした。
とはいえ、つまらなかったわけではありません。「何じゃ？ こりゃ」と唖然
としながら、謎だらけの展開に引き込まれてしまいました。登場人物の行動の
動機付けは不明なまま進みますが、それが確実に「今」の時代を象徴している
のは確かです。それを躍動感タップリに描くので、つい目が離せなくなりまし
た。
そして終盤になって、ようやくこの映画が描いたものが見えてきました。それ
は迷いに迷って袋小路に入り込んだ愛菜に、安曇春子が放った言葉。男社会に
抑圧され、男に翻弄される女性に対して力強く背中を押すメッセージです。た
くましく生きろ。自分で道を切り拓けと……。
エンディングもユニークです。軽快に逃走しまくる女子高生ギャングたちを、
アニメなども使いながらファンタスティックに描きます。青春映画らしい爽快
感あふれるエンディングです。
閉塞感に包まれた安曇春子を演じた蒼井優の演技が見事です。こんなに時制を
バラバラにされたら、ドラマ的に心情を追いにくいものですが、彼女の心理は
きっちりと伝わってきました。
あまりにもユニークな映画です。正直わかりにくいし、素直に感動したり、涙
を流すような映画ではありませんが、今の時代をとらえているのは確か。個人
的には、とても面白く鑑賞できました。
≪ぽちの満足度≫
★★★★☆
（89点）
（田中ひろあき）
〔鑑賞データ〕
2016年10月30日（日）第29回東京国際映画祭にて
[「あ」のページ]
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