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ダゲレオタイプの女（LA
FEMME DE LA PLAQUE ARGENTIQUE）
（2016年 フランス・ベルギー・日本）（上映時間2時間11分）
監督・脚本：黒沢清
出演：タハール・ラヒム、コンスタンス・ルソー、オリヴィエ・グルメ、マチ
ュー・アマルリック、マリック・ジディ、ヴァレリ・シビラ、ジャック・コ
ラール
＊ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿シネマカリテほかにて全国公開
ホームページ http://www.bitters.co.jp/dagereo/
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＜ストーリー＞
写真家ステファン（オリヴィエ・グルメ）の助手に採用されたジャン（タハー
ル・ラヒム）。ステファンはダゲレオタイプという技法を用いていた。それは
長時間の露光が必要な銀板写真で、モデルは数十分にわたる露光の間、動くこ
とのないように全身を拘束器具で固定された。現在のモデルはステファンの娘
のマリー（コンスタンス・ルソー）。ジャンは次第にマリーに心惹かれ、父親
の芸術の犠牲になっている彼女を救い出したいと思うようになる……。
＜レビュー＞
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黒沢清初の海外作品はホラー的色彩を帯びたラブストーリー
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『岸辺の旅』『クリーピー 偽りの隣人』と話題作が相次いだ黒沢清監督。そ
れに続く今作はオール外国人キャスト、全編フランス語で撮りあげた初の海外
作品です。日本よりも先に海外（特にヨーロッパ）で高く評価された監督なの
で、むしろ遅すぎた気もしますね。
この映画でカギを握るのは、「ダゲレオタイプ」という世界最古の写真撮影方
法。これは、銀板に直接ポジ画像を焼き付けるので、長時間の露光が必要な技
法。そのため人間の被写体は、数十分にわたる露光の間、けっして動いてはい
けません。そのためモデルは、全身を特殊な拘束器具で固定されるのです。
うーむ、これだけで何やら怪しい感じですねぇ。
この映画の主人公はジャンという青年。写真家のステファンの助手に採用され
ます。ステファンはダゲレオタイプの写真家で、かつては自分の妻をモデルに
していましたが、彼女の死後は娘のマリーをモデルにしています。しかし、マ
リーは父の束縛を逃れて自立することを望んでいます。そんな中でやってきた
ジャンは、マリーと次第に親密になります。
というわけで、基本的には写真家のアシスタントと写真家の娘によるラブス
トーリー。ただし、ただのラブストーリーではありません。黒沢監督の過去の
映画同様にホラー的な要素が色濃く見えます。冒頭のステファンの屋敷のシー
ンから、不気味さが満点です。ドアがギーっと開いただけで、何やらこの世の
ものではない存在を感じさせます。それもそのはず、実はステファンの妻は首
つり自殺しており、ステファンは妻の亡霊を恐れていたのです。
全体のタッチはひたすら静謐です。その中で、西洋屋敷の内部や拘束具を使っ
たダゲレオタイプの撮影の様子が効果的に使われ、不穏な空気が増幅していき
ます。青いドレスを着た女（ステファンの妻？）が移動してくるシーンなども、
一歩間違えばチープな幽霊映画になりそうですが、けっしてそうはしません。
美しく、怪しいムードを漂わせます。途中では音楽の使い方なども含めて、ヒ
ッチコックを連想させるようなシーンも登場します。
いったいなぜステファンは亡き妻を恐れているのか。そのヒントは途中で示さ
れるのですが、すべてが明確になっているわけではありません。それでも、写
真に残すことで永遠を求めるステファンの狂気を背景に、かつては妻が、そし
て今は娘が犠牲者となっていることを強く印象付けます。
同時に、最近の黒沢作品同様に、この映画も生者と死者の境界線が曖昧です。
死者が生者のごとく現れたり、突然姿が消えたり。特に後半は、それがさらに
エスカレートします。父から自立したい娘のマリーですが、ある時、不可思議
な事故に遭います。そして、そこから先は、描かれているのがリアルな現実な
のか、あるいはこの世ではない別の世界なのか、それさえよくわからなくなっ
てきます。
そんな中でも、ひたすらマリーとの幸せをつかもうとするジャン。そこには屋
敷の売却話と、それに絡むジャンの欲望もフィーチャーされます。
ラストは、ある程度予想可能な展開ですが、それでも衝撃的。生者と死者が区
別をなくして、その情念だけが交信する。美しくも切ないエンディングです。
絶好の舞台を得て、黒沢監督らしさが発揮された作品。マリー役のコンスタン
ス・ルソー、ステファン役のオリヴィエ・グルメの演技も見ものです。
≪ぽちの満足度≫
★★★☆☆（＋1／2★）
（86点）
（田中ひろあき）
〔鑑賞データ〕
2016年10月18日（火）シネマカリテにて。午後1時の回
[「た」のページ]
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