団地


(2015年 日本)(上映時間1時間43分)
監督・脚本:阪本順治
出演:藤山直美、岸部一徳、大楠道代、石橋蓮司、斎藤工、冨浦智嗣、竹内都
子、濱田マリ、原田麻由、滝裕可里、宅間孝行、小笠原弘晃、三浦誠己、麿赤

*有楽町スバル座ほかにて全国公開
ホームページ http://danchi-movie.com/
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<ストーリー>
三代続いた漢方薬局をたたみ、団地へ越してきた清治(岸部一徳)と妻のヒナ
子(藤山直美)。ある日、かつての常連客・真城(斎藤工)が訪れ、清治に漢
方薬を注文する。そんな中、些細なことから周囲に嫌気がさした清治は、「死
んだことにしてくれ」と床下に隠れてしまう。姿の見えなくなった清治につい
て、団地では失踪説から殺人の噂まで飛び交うようになるのだが……。

<レビュー>
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奇想天外さの中から人間のおかしさや悲しみが伝わる
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阪本順治監督と主演の藤山直美のコンビは、犯罪ドラマの秀作『顔』(2000
年)で知られています。そのイメージのまま今回の映画を観たら、アララララ
……。予想外の映画でビックリです。

舞台は大阪の古い団地。清治とヒナ子の夫婦が半年ほど前から住んでいます。
2人は伝統ある漢方薬局を閉めて、ここに移り住みました。どうやら、それに
は息子の死が関係している模様。そんな中、団地の自治会長選挙がきっかけで、
清治は「死んだことにしてくれ」と床下に隠れて姿を消してしまいます。それ
をめぐって団地では殺人事件説まで登場する大騒ぎになります。

この映画、全編が笑いに満ちています。主人公の2人に加え、自治会長夫婦を
はじめとする団地の人々、そして謎の青年などが、ギャグやダジャレ満載の会
話を繰り広げます。いかにも大阪らしいテンポの良い会話で、オフビートな笑
いとブラックユーモアがたっぷりです。

というわけで、途中まではコメディーに加え、夫婦の過去の傷をめぐる人間ド
ラマの様相を呈しているのですが、その後は意外な展開に突入します。

転機はある青年の依頼。真城というこの男は、かつての漢方薬局の常連客で、
閉店後も特別に夫妻に漢方薬を注文していました。ただし、かなり怪しいヤツ
で、日本語がうまく使えません。「ごぶさたでした」を「ごぶがりでした」と
言ったりして(これもギャグですけど)。うーむ、どこか外国からやってきた
のだろうか?

と思ったら、とんでもない。これ以上はネタバレになるので詳しいことは言い
ませんが、想像を超えるところからやってきた、想像を超える種類の人間だっ
たのです。なんという荒唐無稽さでしょう。これって、SFじゃん!!

ただし、本格的なSFというよりも、どこかチープな雰囲気のSFファンタ
ジー。それが独特の味を出しています。もちろん笑いは最後まで途切れません。
「そんなアホな!」とツッコミを入れつつ最後まで見入ってしまいました。

そしてラストは驚きの展開。あまりの唐突さに、あっけにとられる観客もいる
かもしれません。解釈は人それぞれですが、主人公夫婦の思いが投影されたラ
ストなのは間違いありません。温かな余韻を残してくれます。

このドラマを簡単に言えば、失意の夫婦の再生物語ということでしょうが、そ
れをこんなに自由でトンガったストーリーで描くのだから恐れ入りました。た
だ笑えるだけでなく、人間のおかしさや悲しみも伝わってきました。

実力派キャストも見もの。主人公夫妻役の藤山直美、岸部一徳、自治会長夫妻
役の大楠道代、石橋蓮司など、みんなさすがの演技でした。彼らがいたからこ
そ、こんな奇想天外な話が、地に足が着いたドラマになったのでしょう。

これまでに、あらゆるタイプの映画を撮ってきた阪本監督。60歳近くなっても
遊び心満点の若々しい映画を生み出すのだから素晴らしい! 今後もまたまだ
期待できそうです。

≪ぽちの満足度≫
★★★☆☆(+1/2★)
(87点)
                         (田中ひろあき)

〔鑑賞データ〕
2016年6月6日(月)ユナイテッド・シネマとしまえんにて。午前9時50分の回


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